介護にまつわるお役立ちコラム

自宅での親のケガ、8割が転倒!原因とすぐできる対処法とは

2025年10月20日

高齢の親を持つ皆さん、親御さんが自宅で転んでヒヤリとした経験はありませんか?実は高齢者の事故の大半は自宅で発生しており、その原因の約8割が転倒によるものです。本記事では、なぜ安全なはずの自宅で転倒事故が起きるのか、その原因と対処法、そして今すぐできる予防策について詳しく解説していきます。離れて暮らす親の安全を守るための実践的な知識を身につけ、大切な家族を転倒事故から守りましょう。

高齢者の事故は自宅が最多!転倒が招く深刻なリスク

独立行政法人国民生活センターのデータによると、65歳以上の高齢者が救急搬送される事故のうち、実に77.1%が住宅内で発生しています。さらに、その原因の約2割が「転倒」によるものだということが明らかになっています。安全だと思われがちな自宅こそが、実は最も事故が起きやすい場所なのです。

高齢者の転倒は、単なる擦り傷や打撲で済まないケースが多いという深刻な現実があります。厚生労働省の令和4年国民生活基礎調査によれば、要介護となった原因の第3位が「骨折・転倒」(13.9%)となっています。転倒による骨折は、そのまま寝たきりや要介護状態に直結する重大なリスクとなるのです。

また、大きな事故の背後には、実に多くの「ヒヤリ・ハット」体験が潜んでいることも見逃せません。東京都の調査では、60歳以上の3人に2人が日常生活でヒヤリ・ハット経験があると回答しています。小さな段差でよろけた、スリッパで滑りそうになったといった軽微な出来事を見過ごしていると、いずれ重大な事故につながる可能性があります。予防こそが最良の対策なのです。

参考:独立行政法人国民生活センター|医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故-高齢者編-

参考:厚生労働省|Ⅳ 介護の状況

参考:東京くらしWEB|シニア世代のヒヤリ・ハット調査

なぜ親は家の中で転倒するのか?潜む3つの原因

高齢者が慣れ親しんだ自宅で転倒してしまうのには、加齢に伴う特有の理由があります。若い頃は何でもなかった環境でも、身体能力の変化により危険な場所に変わってしまうのです。転倒の原因は「身体能力の変化」「住環境の危険」「視覚の問題」という3つの側面から理解する必要があります。

これらの原因は単独で作用することもあれば、複合的に絡み合って転倒リスクを高めることもあります。たとえば、筋力が低下した状態で、薄暗い廊下の小さな段差につまずくといったケースです。一つひとつの原因を理解し、それぞれに対策を講じることが、転倒事故を防ぐ第一歩となります。

原因①:筋力やバランス感覚の低下

加齢により下肢の筋力が低下すると、足が思うように上がらなくなってきます。若い頃なら軽々とまたげた敷居の高さでも、つま先が引っかかってつまずいてしまうのです。さらに、体のバランス感覚も衰えるため、少しよろけただけで体勢を立て直すことができません。

筋力が十分でないと、ふらついた際に踏ん張ることができず、そのまま転倒に至ってしまいます。特に起床時や夜間のトイレへの移動時は、体が完全に目覚めていない状態のため、転倒リスクが高まります。このような時は、布団の中で足首を上下に動かしてから起き上がる、「トイレに行くぞ」と自分に声をかけて意識を覚醒させるなど、簡単にできる対策が有効です。

日常生活の中で意識的に体を動かすことも重要になってきます。軽いスクワットや片足立ちなど、筋力とバランス感覚を維持する運動を習慣化することで、転倒リスクを大幅に減らすことができるのです。

原因②:住環境に潜む危険箇所

高齢者の転倒で最も注意すべきは、大きな段差ではなく「わずかな段差」です。カーペットの縁、ドアの敷居、床に置かれた新聞紙、這わせた電気コードなど、若い世代なら気にも留めないような小さな高低差が、最大の危険要因となります。

住環境に潜む危険箇所とヒヤリ・ハット事例

場所

具体的なヒヤリ・ハット事例

居室

スリッパ:歩き始めた際、足がもつれてもう片方のスリッパを踏んでしまい、転びそうになった。

カーペット:部屋の入り口で、めくれたカーペットにつまずいて転倒し、手を骨折した。

新聞・チラシ:床に置いてあった新聞紙の上に乗ってしまい、滑って転倒しそうになった。

コード:床を這っていた電気コードにつまずき、骨折してしまった。

脚立・踏み台:踏み台に乗って物を取ろうとした際、バランスを崩して転落した。

浴室

浴槽:浴槽に入ろうとして縁に手をついたが滑ってしまい、浴槽内で転倒しそうになった。

マット類:シャンプーが付着したマットや、すのこが滑り、転倒しそうになった。

椅子:洗い場の床に残っていた石鹸で椅子が滑り、座ろうとした際に尻もちをついた。

階段

段差の誤認:色の差が分かりにくく段差をうまく認識できず、足を踏み外しそうになった。

遠近両用メガネ:メガネの仕様で足元がぼやけて見え、階段の位置を誤認して転びそうになった。

照明の暗さ:夜間に足元が暗く、段差がよく見えなかったため危険を感じた。

また、普段手すり代わりにしている家具が不安定だと、それが転倒の原因になることもあります。ウエストがゆるんで裾が下がったズボンや、長すぎるパジャマの裾を踏んでしまうケースも少なくありません。身の回りの環境を改めて点検し、危険要因を一つずつ取り除いていく必要があります。

原因③:視力の変化と認識のズレ

白内障などの眼疾患により、色のコントラストが分かりにくくなると、階段などの段差を陰影で判断することが困難になります。同じ色の階段が連続していると、どこが段の境目なのか認識しづらくなり、足を踏み外す危険性が高まるのです。

特に注意が必要なのは「遠近両用メガネ」の使用時です。階段を下りる際、下を向くと近くにピントが合うため、1メートル以上離れた足元がぼやけてしまいます。まるで老眼鏡をかけたままテレビを見ているような状態になり、段差の位置を誤認して転落する危険があります。

こうした視覚の問題に対しては、階段の縁に色の違うテープを貼ってコントラストを明確にする、照明を明るくして視認性を高めるといった対策が有効です。遠近両用メガネを使用している場合は、階段を下りる際は目線だけでなく顔ごと下に向けて、レンズの中央部分で足元を見るよう心がけることが大切になります。

親が転倒した際の正しい初期対応

高齢者が転倒した場合、慌てて起き上がらせようとすることは大きな間違いです。無理に動かすことで、骨折や内臓損傷を悪化させる可能性があります。まず何より大切なのは、介護者自身が落ち着いて状況を把握することです。

正しい初期対応は「意識の確認」「状況の聴取」「医療機関への判断」という3つのステップで進めていきます。特に頭部を打撲している場合は、その場では症状がなくても、数日後に硬膜下血腫などの深刻な症状が現れることがあるため、必ず医療機関での検査が必要になります。

転倒直後の対応が、その後の回復を大きく左右することもあります。冷静で的確な判断と行動により、重篤な後遺症を防ぐことができるのです。

ステップ1:意識の確認と声かけ

転倒した直後は、まず本人に声をかけて意識がはっきりしているかを確認します。「大丈夫ですか」「私の声が聞こえますか」といった簡単な問いかけから始め、反応を観察することが重要です。

転倒のショックで動揺している本人に対しては、「大丈夫だよ」「ここにいるよ」といった優しい声かけを続け、気持ちを落ち着かせることが大切になります。急いで起こそうとせず、そのままの姿勢で安静にしてもらいながら、ゆっくりと状況を確認していきます。

もし意識が朦朧としていたり、呼びかけに反応がない場合は、直ちに119番通報をする必要があります。意識レベルの低下は、頭部外傷や脳血管障害の可能性を示唆する重要なサインだからです。

ステップ2:状況の聴取と外傷の確認

意識がはっきりしていることを確認したら、転倒した姿勢のまま「どこが痛いか」「吐き気はないか」「めまいはないか」といった身体の状態を丁寧に聞き取ります。矢継ぎ早に質問するのではなく、一つずつゆっくりと確認していくことが肝心です。

骨折の兆候として「ひどく腫れている」「変形している」「動かすと激痛が走る」といった症状がある場合は、絶対に無理に動かさず、そのままの状態で救急車を待ちます。特に大腿骨頸部骨折などは、不適切な移動により血管や神経を損傷する恐れがあるため、専門的な処置が必要です。

頭部打撲の有無は最も重要な確認項目となります。たとえその場で症状がなくても、頭を打っている場合は必ず医療機関を受診し、CTやMRIなどの画像検査を受けることが推奨されます。硬膜下血腫は数日から数週間後に症状が現れることもあるため、継続的な観察が欠かせません。

ステップ3:医療機関への連絡と相談

判断に迷う場合は、まずかかりつけ医や訪問看護師に連絡を取り、状況を詳しく伝えて指示を仰ぎます。普段から本人の健康状態を把握している医療者であれば、より的確なアドバイスを得ることができるでしょう。

夜間や休日でかかりつけ医と連絡が取れない場合は、救急相談センター(#7119)を活用する方法があります。医療専門職が24時間体制で相談に応じ、救急車を呼ぶべきか、自力で受診すべきか、翌日まで様子を見てもよいかなど、適切な判断をサポートしてくれます。

医療機関に連絡する際は、「いつ転倒したか」「どのような状況で転んだか」「現在の症状(痛みの部位と程度、意識レベル、外傷の有無など)」「既往歴と服薬状況」といった情報を整理して伝えることが重要です。これらの情報は、医療者が適切な判断を下すために不可欠な要素となります。

家庭内の転倒事故を未然に防ぐための予防策

転倒事故の多くは、適切な予防策を講じることで防ぐことができます。住環境の整備と生活習慣の見直し、そして緊急時の備えという3つの観点から、総合的な対策を進めることが重要です。

家庭内の転倒事故を防ぐための予防策リスト

観点

子ども世代ができる具体的な予防策

環境整備

手すりの設置: 階段や廊下、浴室、トイレなど、移動や立ち座りの際に体を支える場所に手すりを設置する。

足元の安全確保: カーペットの縁や電気コードを固定し、敷居などのわずかな段差にはミニスロープを設置する。

滑り止め対策: 浴室や浴槽内に滑り止めマットを敷く。

照明の改善: 廊下や階段、トイレの足元に人感センサー付きのライトを設置したり、照明を明るいものに交換したりして、段差を見やすくする。

整理整頓: 床に新聞紙や物を置かないように片付け、つまずきの原因を取り除く。また、踏み台が必要な高所に物を置かないようにする。

視覚的補助: 階段の段差が見えにくい場合、縁に色のついたテープを貼ってコントラストをはっきりさせる。

安定した椅子の設置: 脱衣所や玄関に、腰かけて身支度ができる安定した椅子を置く。

身体機能の維持

衣類の確認: 親が着ているパジャマやズボンの裾が長すぎないか、ウエストのゴムが緩んでいないかを確認し、裾などを踏んで転倒するリスクを減らす。

運動の習慣づけ: 軽いスクワットを勧めたり、一緒に散歩したりするなど、日常的に体を動かす機会を作る。

意識づけの促進: 「トイレに行くぞ」と声に出す、朝布団の中で足首を動かすなど、動作の前に意識を向ける習慣を促す。

緊急時の備え

連絡手段の確保: 親が一人でいる時に転倒しても助けを呼べるよう、トイレなど転倒リスクの高い場所に、床に近い高さで電話の子機を設置する。

緊急通報サービスの検討: 自治体や民間企業が提供する緊急通報サービスへの加入を検討する。

緊急時の入室方法の確認: 万が一、親が室内で動けなくなった場合に備え、鍵の保管場所や入室方法について家族で事前に話し合っておく。

これらの対策は、親本人だけでなく子ども世代も一緒に取り組むことで、より効果的なものとなります。たとえば、親と一緒に軽い運動を始めることで、親の運動習慣が定着しやすくなるだけでなく、子ども世代自身の健康維持にもつながります。生活習慣の見直しを家族全体の取り組みとして捉えることが、結果的に親の安全を守ることにつながるのです。

離れて暮らす親の見守りに「イチロウ」の訪問介護サービス

高齢者の単独世帯や高齢夫婦のみの世帯が増加する中、転倒事故の多くは家族が不在の時に発生しています。日中独居の高齢者も多く、万が一転倒した際に発見が遅れるリスクは深刻な問題となっています。

定期的な訪問介護サービスを利用することは、単なる安否確認以上の価値があります。介護の専門職による定期的な訪問は、住環境の危険箇所の早期発見や、本人の体調変化、歩行状態の変化などを専門的な視点でチェックできるメリットがあります。ちょっとした変化を見逃さない専門家の目が、重大な事故を未然に防ぐことにつながります。

さらに、定期的に誰かが訪問してくれることは、高齢者本人にとって大きな安心感をもたらします。転倒への不安から外出を控えたり、活動量が低下したりすることを防ぐ効果も期待できます。「イチロウ」の訪問介護サービスなら、介護保険外でも柔軟に対応可能で、ご家族の都合に合わせたきめ細やかなサポートを提供しています。

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まとめ

高齢者の転倒事故は、その多くが自宅で発生し、骨折から寝たきりへとつながる深刻なリスクをはらんでいます。しかし、転倒の原因を正しく理解し、適切な予防策を講じることで、そのリスクは大幅に軽減できます。筋力の維持、住環境の整備、視覚の補助といった多角的なアプローチと、万が一の際の冷静な対応が、大切な家族を守る鍵となります。離れて暮らす親の安全を守るためにも、定期的な見守りと専門的なサポートの活用を検討し、家族全体で転倒予防に取り組んでいきましょう。

親の転倒に関するよくある質問

親の転倒について、多くの方が抱える疑問や不安があります。ここでは、よくある質問についてお答えします。

Q1:「転倒した老人は助け起こすな」と聞きますが、なぜですか?

転倒直後は骨折や内臓損傷の有無が分からないため、無理に動かすと症状を悪化させる危険があります。特に脊椎や大腿骨の骨折がある場合、不適切な移動により神経や血管を傷つける可能性があるため、専門的な知識なく動かすことは避けるべきです。まずは安静にして状況を確認し、必要に応じて救急隊の到着を待つことが最善の対応となります。

Q2:家の中で最も転倒しやすい危険な場所はどこですか?

統計的に最も転倒事故が多いのは「階段」です。上り下りの動作自体がバランスを崩しやすく、転落すると重大な事故につながります。次いで「居室」での転倒も多く、これは滞在時間が長いことと、カーペットや電気コードなどの障害物が多いためです。また「浴室」は、濡れた床で滑りやすく、硬い壁や床にぶつかると重篤なケガにつながりやすい危険な場所といえます。

Q3:転んだ後、本人は「大丈夫」と言っていますが、病院に連れて行くべきですか?

高齢者は痛みを我慢する傾向があり、また転倒直後はアドレナリンの作用で痛みを感じにくいことがあります。特に頭を打った場合は、症状が遅れて出現することもあるため、本人が大丈夫と言っても必ず医療機関を受診すべきです。また、数日間は歩き方の変化、食欲の低下、普段と違う様子がないか注意深く観察し、少しでも異変があれば速やかに受診することが重要です。

監修者情報

作業療法士として二次救急指定病院で医療チームの連携を経験。その後、デイサービスの立ち上げに携わり、主任として事業所運営や職員のマネジメントに従事。「現場スタッフが働きやすく活躍できる環境づくり」をモットーに、現場を統括。

現在は、医療・介護ライターとして、医療介護従事者や一般の方向けに実践的で役立つ情報を精力的に発信している。

平岡泰志
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