
通院の家族代行サービスとは?料金や選び方のポイントを解説
介護にまつわるお役立ちコラム
認知症の介護において、「暴言」や「暴力的な言動」に悩まされるケースは少なくありません。大切な家族だからこそ、傷つきながらも耐えてしまう方も多いでしょう。しかし、これらの言動には必ず理由があり、適切に対応すれば予防や改善も可能です。
本記事では、認知症による暴言や暴力が起きる背景から、実際に取るべき対処法、予防のポイント、介護現場での具体的な対応例までをわかりやすく解説します。限界を感じる前に、正しい知識と支援を得て、より良い介護環境を整えていきましょう。
認知症を患った方が突然暴言を発したり攻撃的になったりする姿を目の当たりにすると、ご家族は大きな衝撃やショックを受けるでしょう。これまで穏やかだった人が急に怒りっぽくなるのは、決して本人の性格の問題ではありません。
認知症による脳の機能低下が複数の要因と絡み合い、本人が意図しない形で暴言や攻撃的な行動として現れているのです。
暴言の背景には、脳機能の変化、心理的な要因、体調面での問題、さらには認知症のタイプによる特徴的な症状などが関係しています。
認知症の進行により、感情のコントロールを司る脳の前頭葉が萎縮し、機能が低下します。前頭葉は理性や判断力を担う重要な部位であり、ここがダメージを受けると、普段なら抑えられるはずの怒りや悲しみといった感情が、ささいなきっかけでコントロールできなくなります。
この状態は「感情失禁」と呼ばれ、本人の意思や性格とは無関係に起こる症状です。穏やかだった方が突然怒りっぽくなるのは、病気による脳の変化が原因であることを理解することが大切です。
記憶障害や見当識障害により、認知症の方は今いる場所や時間がわからなくなったり、これから何が起こるか理解できなかったりして、常に強い不安や混乱の中にいます。その不安な状態から自分を守るための防御反応として、攻撃的な言葉が出てしまうことがあります。
また、認知機能が低下しても自尊心や羞恥心は残っているため、介護者からの何気ない言動にプライドを傷つけられ、反発心から暴言に至るケースもあります。周囲のイライラした態度や険しい表情を敏感に察知し、その理由がわからぬまま自分も不安になり、否定的な感情の悪循環が生まれてしまうのです。
痛み、かゆみ、便秘、発熱といった身体的な不調や不快感を、認知症の方はうまく言葉で表現できません。そのストレスがイライラや暴言として現れることがあります。不調の原因が理解できないため、「誰かに毒を盛られたのではないか」といった被害妄想につながることもあります。
また、認知症の治療薬には副作用として怒りっぽさ(易怒性)が現れるものがあり、ドネペジル(アリセプト)もその一つです。薬の服用開始後に性格の変化が見られた場合は、かかりつけ医や薬剤師への相談が重要です。複数の持病がある場合、薬の飲み合わせが攻撃性を高める可能性もあります。
暴言や暴力の現れ方は、脳のどの部分が主にダメージを受けるかによって異なり、認知症の種類ごとにある程度の特徴があります。
認知症の種類 | 特徴的な症状と暴言・暴力の関連 |
前頭側頭型認知症 | 理性や社会性を司る前頭葉が萎縮するため、感情を抑制できず、初期から暴言や反社会的な行動がみられやすい。 |
レビー小体型認知症 | 「知らない人がいる」といったリアルな幻視を見ることが多く、その恐怖やストレスから興奮し、暴言や暴力につながることがある。 |
血管性認知症 | 脳梗塞や脳出血により感情のコントロールが効かなくなる「感情失禁」が起こりやすく、ささいなことで怒ったり泣いたりする中で暴言が出ることがある。 |
アルツハイマー型認知症 | 判断力や理解力が低下し、物事を誤解しやすくなることから暴言につながる。睡眠障害を併発しやすく、寝不足によるイライラが原因となることもある。 |
本人の認知症のタイプを把握することが、原因を推測し、適切な対応を見つけるための第一歩になります。
認知症の方から暴言や暴力を受けた際は、感情的な対応を避け、冷静かつ適切な行動を取ることが重要です。本人の興奮状態をさらに悪化させないためにも、正しい対処法を理解しておきましょう。
以下では、実際に暴言や暴力が起きたときの具体的な対応方法について解説します。
認知症の方が興奮して暴言を発している際は、同じ空間にいることでお互いの感情が悪化する可能性があります。まずは静かにその場を離れ、物理的な距離を取りましょう。時間を空けることで、本人は暴言を吐いたこと自体を忘れて気持ちが落ち着きやすくなり、介護者も冷静さを取り戻せます。
一人での介護に限界を感じる場合は、ショートステイや訪問介護サービスを利用して意図的に離れる時間を作る「レスパイト(休息)」を活用することをおすすめします。
「なんでそんなこと言うの!」などと強い口調で言い返すと、本人は「攻撃された」「馬鹿にされた」と受け取り、さらに興奮して暴言や暴力が悪化する悪循環を招きます。また、暴力を止めようとして体を押さえつける「身体拘束」は、本人の尊厳を著しく傷つけ、強い恐怖心から症状をさらに悪化させる危険な行為です。
会話にならないからといって部屋に閉じ込めてしまうと、強いストレスや孤独感を与え、さらなる問題行動の引き金になるため避けるべき対応といえます。
認知症の介護、特に暴言や暴力への対応は、家族だけで抱え込むには限界があります。精神的に追い詰められる前に外部の専門機関に相談することが不可欠です。
相談先 | 主な役割 |
地域包括支援センター | 市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口。ケアマネジャーや保健師などの専門家が、介護の悩み相談や適切なサービスの紹介などを行ってくれる。 |
認知症疾患医療センター | 都道府県が指定する認知症専門の医療機関。鑑別診断や治療方針の決定、専門的な医療相談に対応してくれる。 |
かかりつけ医・ケアマネジャー | 日頃の状態をよく知る身近な専門家。体調の変化や介護サービスの調整について気軽に相談できる。 |
域包括支援センターは市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、ケアマネジャーや保健師などの専門家が介護の悩み相談を行います。
認知症疾患医療センターは都道府県指定の認知症専門医療機関として、専門的な医療相談に対応します。厚生労働省の「介護事業所・生活関連情報検索」で地域包括支援センターを探すことができます。誰かに「話す」こと自体が、つらい気持ちを癒し、状況整理の助けとなります。
認知症による暴言や暴力は、適切な接し方や環境づくりによって予防・改善できる場合があります。本人の気持ちに寄り添い、安心できる環境を整えることで、問題行動の頻度を減らすことが可能です。
以下では、暴言や暴力を予防・改善するための具体的なポイントについて解説します。
本人の言動が事実と違っていても、「でも」「だけど」といった言葉で頭ごなしに否定せず、まずは「そう思っているんだね」と一度受け止める姿勢が重要です。本人は自分なりの理屈で現実を理解しようとしているため、それを否定されると混乱や不安が増し、見捨てられる恐怖から暴言につながる可能性があります。
言葉の内容だけでなく、その裏にある「不安」「悲しみ」「怒り」といった感情に寄り添い、「○○で嫌だったんだね」と共感の言葉をかけることが効果的といえるでしょう。
子ども扱いしたり、能力を試すような質問(「これ、わかる?」)をしたり、本人の前でため息をついたりする行為は、気づかないうちに自尊心を傷つけている可能性があります。何かを制止するときは、単に「ダメ」と言うのではなく、「○○するのは危ないから、代わりにこちらをしませんか?」のように、本人の意欲を尊重しつつ代替案を示すコミュニケーションの工夫が大切です。
本人ができることは自尊心を傷つけないために任せ、できない部分だけをさりげなく手伝うなど、本人の「できること」に着目した関わり方を心がけましょう。
認知症の方は見当識障害(時間や場所、人物を認識しづらくなること)の影響で環境の変化への適応が難しく、引っ越しや家具の配置換えが大きなストレスとなり、問題行動の引き金になることがあります。部屋はできるだけ以前の状態を保ち、本人が長年愛用してきた家具や思い出の品をそばに置くなど、安心できる環境を維持する工夫が必要です。
騒音や眩しすぎる照明、不快な室温など、本人がストレスを感じる物理的な刺激をできるだけ取り除き、穏やかに過ごせる空間づくりを心がけることが重要となります。
暴言や暴力、興奮といった行動・心理症状(BPSD)が激しく、介護が困難な場合には、症状を緩和するための薬物療法も選択肢の一つになります。抗精神病薬や漢方薬などがあり、興奮を鎮めたり不安を和らげたりする効果が期待できますが、あくまで症状をコントロールするためのものであり、根本治療ではありません。
薬には副作用のリスクや、本人に合う・合わないがあるため、過度な期待はせず、必ず認知症の専門医と十分に相談した上で、慎重に治療を進める必要があります。
家族だけで介護を担うことには限界があり、介護者が心身の健康を保つために外部サービスを上手に活用することが重要です。
「イチロウ」は介護保険では対応が難しい長時間の見守りや夜間対応、急な依頼にも対応可能な自費の訪問介護・看護サービスです。認知症の方への対応経験が豊富なヘルパーが、自宅や施設での介護、通院の付き添いまで幅広くサポートしてくれます。
実際に利用した家族からは「仕事と介護の両立ができている」「夜に眠れる日があるのは大きい」「漠然とした将来への不安が軽くなった」といった声が寄せられており、介護者の負担軽減につながる具体的なメリットが確認されています。
認知症による暴言や暴力は、適切な対応と予防策によって大幅に改善できます。脳機能の低下による症状であることを理解し、物理的距離を置く、感情的にならない、専門機関に相談するといった正しい対処法を身につけることが重要です。また、本人の気持ちを受け止め、安心できる環境を整えることで問題行動を予防できます。一人で抱え込まず専門家の力を借りることで、介護者の負担を軽減し、認知症の方と家族が穏やかに過ごせる環境を実現できるでしょう。
認知症による暴言や暴力への対応について、多くの家族介護者が抱く疑問や不安があります。ここでは、実際によく寄せられる質問とその回答を通じて、適切な対応方法について理解を深めていただけるよう解説します。
暴言は本心や本性が現れたものではなく、脳の機能障害による「症状」の一つです。不安や混乱から自分を守るための防御反応であったり、感情のコントロールが効かなくなったりした結果として、意図せず口から出てしまう言葉といえます。
暴言を吐いた後、冷静になってから後悔や自己嫌悪に陥っているご本人も少なくないため、言葉の内容を深刻に受け止めすぎないことが、介護者の心を守る上で大切です。
介護者や本人の命に危険が及ぶなど、身の危険を感じる切迫した状況においては、ためらわずに警察(110番)へ通報することが、自分と本人を守るための適切な行動です。
認知症という病気が原因の行為であれば、刑事責任を問われることはほとんどありません。警察への通報と同時に、または事後に、必ず地域包括支援センターなどの相談窓口にも連絡し、緊急一時保護や今後の対応について相談する必要があります。
在宅での介護が心身ともに限界に達し、安全な生活が送れないと判断される場合、施設への入居はご本人とご家族双方にとって重要な選択肢となります。認知症ケアを専門とする施設では、暴言や暴力といったBPSDが重い方でも受け入れ、専門的な知識と技術で対応してくれます。
施設入居は「家族が見捨てる」ことではなく、専門家の力を借りて、より安全で穏やかな生活環境を整えるための前向きな選択です。まずはケアマネジャーや地域包括支援センターに相談しましょう。