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傾眠傾向とは?原因や対策方法・症状・リスク【介護用語解説】

2025年05月15日

高齢者の介護において「傾眠(けいみん)」という言葉を耳にすることがありますが、これは単なる居眠りとは異なる、注意が必要な状態を指します。傾眠傾向とは、外部からの刺激がなければ目を覚まさないような軽度の意識障害であり、認知症や内科的疾患、薬の副作用など、さまざまな原因によって引き起こされます。進行すると生活に支障をきたすリスクもあるため、早期の対応が重要です。

 

本記事では、傾眠の定義や高齢者に多い理由、原因、リスク、対処法までをわかりやすく解説します。ご家族や介護従事者の方に向けて、日常の観察ポイントやコミュニケーション方法もご紹介します。傾眠傾向への理解を深め、適切なケアにつなげていきましょう。

1傾眠傾向の基礎知識

傾眠傾向は、介護現場でよく目にする症状であり、単なる居眠りとは異なる医学的な意識障害です。高齢者に多くみられるこの状態は、適切な対応を行うことが大切で、背景にある原因を調べ、把握しておくことが重要です。

 

傾眠傾向の症状が現れた場合には、背景にある原因を把握し、適切なケアを行うことで、高齢者の生活の質を保ちやすくなるでしょう。

傾眠とは|一般的な居眠りとの違い

傾眠とは、軽度の意識障害の一種であり、肩を軽くたたく程度の弱い刺激で一時的に意識を取り戻すものの、刺激がなくなるとすぐに再び眠りに落ちてしまう状態です。

 

通常の居眠りと大きく異なる点は、場所や時間の感覚が失われることが多く、意識が戻っても自分がどこにいるのかわからないことがあります。うとうとしているように見えますが、単なる疲労ではなく、病的な状態であることを理解することが重要です。

傾眠の程度と意識障害の段階

意識障害には、意識清明(正常)から昏睡まで4つの段階があり、傾眠はその中で2番目に位置する軽度の意識障害です。それぞれの意識レベルについて、以下に簡単にまとめました。

意識障害の段階状態
意識清明(正常)意識がはっきりしており、状況判断や意思疎通が問題なくできる通常の状態
傾眠うとうとと浅く眠っている状態で、軽い刺激で意識を取り戻すが、放置するとまた眠ってしまう
昏迷強い刺激(大きな声や痛みなど)を与えないと意識が戻らず、不快感を嫌がる行動を示すことがある
昏睡強い刺激を与えても覚醒せず、不快感を避ける素振りも見られない重度の意識障害状態

傾眠状態は放置すると混迷や昏睡へと進行する可能性があるため、早期発見と適切な対応が求められます。各段階で刺激に対する反応は異なり、傾眠では軽い刺激で反応しますが、混迷ではより強い刺激が必要となります。

傾眠傾向が高齢者に多い理由

高齢者に傾眠傾向が多く見られる理由は、複数あります。加齢に伴って神経伝達機能が低下するほか、認知症など脳機能の変化が関連していることも少なくありません。特にアルツハイマー型認知症の初期には、無気力状態から傾眠へと移行しやすいことが指摘されています。

 

さらに、高齢者は体の水分保持機能が低下しているため、脱水状態に陥りやすく、それが傾眠を引き起こす原因となることも。これらの症状は単なる年齢による現象ではなく、健康上の問題として注意深く観察すべき重要なサインです。

 

参考:厚生労働省「認知症ケア法-認知症の理解(株式会社穴吹カレッジサービス)」

2高齢者の傾眠傾向を引き起こす主な原因

高齢者に見られる傾眠傾向には、さまざまな原因が考えられます。適切なケアを提供するためには、どのような要因が傾眠傾向を引き起こしているのかを理解することが重要です。

 

傾眠傾向の主な原因としては、以下が挙げられます。

  • 認知症と傾眠傾向の関係性
  • 内科的疾患からくる傾眠症状
  • 脱水・栄養不足による影響
  • 薬剤の副作用と傾眠の関連性

これらの原因を正しく把握することで、適切な対応や治療につなげることができるでしょう。以降では、それぞれの原因について解説します。

 

参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023(案)」

認知症と傾眠傾向の関係性

認知症患者には昼夜逆転の症状がよく見られ、夜間に十分な睡眠が取れないことから日中の傾眠傾向を引き起こすことがあります。この状態では、夜に覚醒して活動的になる一方で、日中はうとうとと眠ってしまうパターンが形成されてしまいます。

 

また、認知症の初期症状である無気力状態から、活動意欲が低下し、そのまま傾眠状態へと移行することも珍しくありません。特にアルツハイマー型認知症では、脳の機能低下により覚醒と睡眠のリズムが乱れやすく、傾眠傾向が強まることがあります。

 

日中の活動量が減少することでさらに夜間の睡眠の質が低下し、傾眠が悪化するという悪循環に陥ることがあるのです。

内科的疾患からくる傾眠症状

慢性硬膜下血腫は、頭部を打った際に脳と硬膜の間に血腫ができて脳を圧迫する疾患です。この血腫が大きくなると傾眠傾向が現れ、受傷から1~2か月程度で頭痛や片麻痺による歩行障害などの症状が進行していきます。早期発見が重要なため、傾眠傾向の変化には注意が必要になるでしょう。

 

一方、傾眠傾向と似た症状を示す過眠症は、十分な夜間睡眠を取っても日中に強い眠気に襲われる睡眠障害です。特に突然眠りに落ちるナルコレプシーでは前触れなく突然入眠することもあります。

 

また、肝臓や腎臓などの代謝に関わる臓器に異常があると、体内の老廃物が適切に処理されず脳機能に影響を与え、傾眠状態を引き起こすことがあります。高熱による一時的な傾眠も見られますが、原因が改善すれば症状は自然に回復するのが特徴です。

脱水・栄養不足による影響

高齢者は加齢に伴い体内の水分保持機能が低下しているため、意識的に水分を摂取しないと脱水症状に陥りやすい傾向にあります。さらに噛む力や飲み込む力が衰えると食事量が減少し、十分な栄養や水分が摂れなくなることも少なくありません。

 

脱水状態になると血液の濃度が高まり、脳への酸素や栄養の供給が滞ることで、意識レベルの低下を引き起こします。その結果、傾眠傾向が現れ、状態が悪化すると幻覚症状(幻視や幻聴)まで発展することもあるため注意が必要です。脱水による傾眠は単なる眠気と異なり、適切な水分補給を行わないと重篤な状態に進行する可能性があります。そのため、日頃からの水分や栄養の補給を意識的に行う必要があります。

薬剤の副作用と傾眠の関連性

脳細胞の興奮を抑制する作用を持つ抗てんかん薬は、副作用として傾眠傾向を引き起こしやすい特性があります。このタイプの薬剤は中枢神経系に作用し、覚醒度を下げる効果があるため、服用後に眠気を感じることが一般的です。

 

また、認知症治療薬の中にも副作用として軽い傾眠傾向が出るものがあり、使用初期は特に注意が必要となります。医師による薬の調整が安定するまでは、継続的な状態観察が欠かせません。市販薬においても注意が必要で、花粉症の薬などに含まれる抗ヒスタミン薬は傾眠を引き起こしやすい成分として知られています。

 

薬剤による傾眠は服用時間に関連して現れることが多く、薬の影響が少ない成分を選ぶよう薬剤師に相談することも大切です。

3傾眠傾向の進行による生活上のリスク

傾眠傾向が進行すると、日常生活にさまざまな支障をきたし、健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。一見単なる居眠りのように見える傾眠状態は、放置することで深刻なリスクをはらんでいるのです。日中のうとうとが増えることで食事の機会を逃し、必要な栄養が摂取できなくなり、体力低下や免疫力の低下を招くことがあります。

 

具体的には、以下のとおりです。

  • 栄養不足や誤嚥:食事中に居眠りして食べ物を気道へ誤って入れたり、食事の機会を逃したりする
  • 転倒・転落:うとうとしたまま椅子や車椅子からずり落ちる、立ち上がりでバランスを崩す
  • 体力や免疫力の低下:慢性的に栄養や水分が不足し、体調を崩しやすくなる

こうした転倒は骨折などの重篤な怪我につながることもあるため、傾眠傾向が見られる高齢者の安全確保は極めて重要な課題となっています。

4高齢者の傾眠傾向への効果的な対処法

高齢者の傾眠傾向に対しては、その原因や状態に合わせたアプローチが必要です。日常生活の見直しから医療的な対応まで、多角的なアプローチが改善につながることがあります。

 

具体的には、以下の方法が挙げられます。

  • 生活リズムの調整と環境づくり
  • 適切な運動と活動の促進
  • 医療的なアプローチと専門家への相談

これらの対処法について、次項から解説していきます。

生活リズムの調整と環境づくり

傾眠傾向の改善には、まず規則正しい生活リズムを確立することが基本です。毎日同じ時間に起床・就寝する習慣をつけ、体内時計を整えましょう。

 

朝に太陽の光を浴びることは、体内時計のリセットや良質な睡眠に不可欠なメラトニンの分泌を促すため有効です。夜間は寝室を暗く静かにし、寝具や温度・湿度を調整して快適な睡眠環境を整える意識も欠かせません。

 

また、就寝前のスマートフォンなどの電子機器の使用は睡眠の質を低下させるため、控えるように心がけましょう。

適切な運動と活動の促進

日中に適度な運動や活動を取り入れることは、夜間の良質な睡眠につながり、傾眠傾向の改善に役立ちます。散歩や軽い体操など、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけましょう。日中に活動することで体が適度に疲れ、夜に自然な眠気が促される効果が期待できます。

 

運動だけでなく、他の人との会話を楽しんだり、趣味に打ち込んだりすることも、脳に適度な刺激を与え、日中の覚醒レベルを保つのに有効です。ご本人が楽しめる活動を見つけ、日中を活動的に過ごせるよう支援することが重要になります。

医療的なアプローチと専門家への相談

生活習慣の改善だけでは傾眠傾向が良くならない場合や、症状が急に現れたり強くなったりした場合は、病気や服用中の薬の影響も考えられるため、医療機関への相談が必要です。特に、慢性硬膜下血腫のように早期治療で改善が見込める疾患が隠れている可能性もあります。

 

まずはかかりつけ医に相談し、原因の特定を試みましょう。原因に応じて薬の調整や変更、専門的な治療が必要になることもあります。必要であれば、神経内科、老年内科、精神科などの専門医を紹介してもらうことも検討してください。

5家族・介護者が知っておくべき傾眠傾向のケアポイント

傾眠傾向のある高齢者と接する際には、ご家族や介護者による日々の細やかな観察と適切な関わり方が非常に重要です。意識レベルの変化や体調の変動にいち早く気づき、必要に応じて医療機関と連携するためにも、普段の様子を注意深く見守る姿勢が求められます。また、日中の覚醒を促し、ご本人の状態を把握する上で、コミュニケーションの取り方も大切な要素です。

 

ここでは、日常的な観察のポイントや記録の付け方、そして意識レベルを確認するためのコミュニケーション方法について解説します。

日常観察のポイントと記録の重要性

傾眠傾向の方を見守るうえで、日々の変化を観察し記録することは極めて大切です。声かけに対する反応の速さや会話内容の理解度、視線が合うかなどを注意深く見てみましょう。

 

また、食事や水分の摂取量、睡眠時間、日中の活動量、排泄状況、そして傾眠が見られる時間帯や長さなどを記録しておくと、状態の変化を客観的に把握できます。

 

記録は、手書きのノートでもチェックシート形式でも構いません。こうした記録は、医療専門家へ相談する際に、正確な情報を伝えるための重要な資料となり、適切な対応につながります。

コミュニケーションを通じた意識レベルの確認方法

傾眠傾向のある方とのコミュニケーションは、意識レベルを確認する良い機会です。まずは、優しく名前を呼んだり、肩に軽く触れたりしながら、穏やかに話しかけてみましょう。簡単な質問を投げかけ、その反応や会話が成り立つかどうかで、意識の状態をある程度把握することが可能です。

 

反応が鈍い、会話がかみ合わない、視線が合わないといった変化は、注意が必要なサインかもしれません。表情や目の動き、体の反応といった言葉以外のサインにも注目しましょう。日中の覚醒を促すためにも、適度な頻度でコミュニケーションをとることが大切です。

6傾眠傾向のケアにイチロウの介護サービスを活用

傾眠傾向のある高齢者のケアでは、転倒や誤嚥のリスク管理、生活リズムの維持、そして日中の適切な活動を促すための継続的な見守りやサポートが欠かせません。ご家族だけでこれらのケアを担うのは大きな負担となることもあります。そのような場合、専門的な介護サービスの利用が有効な選択肢となります。

 

イチロウは、介護保険外の訪問介護・看護サービスを提供しており、お客様のご要望に応じた柔軟なサポート体制を整えています。たとえば、日中や夜間の見守りサービスでは、傾眠による姿勢の崩れからの転倒・転落リスクを軽減したり、食事の時間に合わせて訪問し、誤嚥に注意しながら食事介助や服薬の管理を行ったりすることが可能です。

 

また、定期的な訪問を通じて、ご本人との会話や軽い運動の機会を作り、日中の覚醒を促すお手伝いもできます。掃除や洗濯といった家事支援も提供しているため、介護にあたるご家族の負担軽減にもつながるでしょう。ケアマネジャーとの連携もサポートしており、日々の細やかな観察記録をもとに、医療機関との情報共有を円滑に進めるお手伝いも可能です。傾眠傾向のある方の在宅生活を支えるために、イチロウのサービス活用を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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7まとめ

傾眠傾向は、単なる居眠りではなく軽度の意識障害であり、高齢者によく見られる症状です。認知症や内科的疾患、脱水・栄養不足、薬剤の副作用などさまざまな原因が考えられます。放置すると栄養不足や誤嚥、転倒などのリスクがあるため、生活リズムの調整や適切な運動、医療的アプローチなど状態に合わせた対応が必要です。

 

家族や介護者は日常的な観察と記録、適切なコミュニケーションを心がけ、早期発見・対応に努めることが大切です。傾眠傾向のケアには、専門的知識を持つ介護サービスの活用も効果的な選択肢となるでしょう。

監修者情報

作業療法士として二次救急指定病院で医療チームの連携を経験。その後、デイサービスの立ち上げに携わり、主任として事業所運営や職員のマネジメントに従事。「現場スタッフが働きやすく活躍できる環境づくり」をモットーに、現場を統括。
現在は、医療・介護ライターとして、医療介護従事者や一般の方向けに実践的で役立つ情報を精力的に発信している。

平岡泰志
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