介護にまつわるお役立ちコラム

【完全版】安心して歩行介助を行うための方法と5つの注意点

2024年07月23日

歩行介助のやり方や注意点について知りたいと思っている方もいるのではないでしょうか。高齢者や身体機能が低下した方の歩行を支援する歩行介助は、介護の現場で欠かせないスキルです。しかし、正しい方法を知らないと、転倒のリスクを高めてしまう危険性もあります。そこでこの記事では、安全に歩行介助を行うための方法と注意点を解説します。介護職の方はもちろん、ご家族の介護をされている方にも役立つ情報です。実践的なテクニックをマスターして、安心して介助できるようになりましょう。

1歩行介助とは

歩行介助とは、身体機能が低下した高齢者などの歩行を支援することです。具体的には、介助者が対象者の歩行をサポートし、安全に目的地まで移動できるように手助けすることを指します。

 

歩行介助の主な目的は転倒を防ぐことです。高齢者や身体機能が低下した方はバランスを崩しやすく、転倒のリスクが高くなります。転倒は骨折などの重大なけがにつながる可能性があるため、正しい方法で介助し、このリスクを軽減することが重要です。

 

また、歩行介助は単に転倒を防ぐだけでなく、対象者の自立心を維持し、QOL(生活の質)を向上させる役割も果たします。適切な介助により、自分の足で歩くという基本的な動作を継続できることは、心身の健康維持にとって非常に重要でしょう。

 

歩行介助を行う際は、対象者の身体機能や歩行能力を正確に把握し、個々のニーズに合わせた適切な方法の選ぶことが大切です。介助者には安全性を最優先しつつ、対象者の残存能力を活かし、自立を促す視点が求められます。

2歩行介助を行うメリット

歩行介助には多くのメリットがあります。以下の3つの観点から、歩行介助のメリットを見てみましょう。

  • 生活習慣病を予防できる
  • リハビリにつながる
  • 寝たきりになるリスクを軽減できる

これらのメリットにより、高齢者や身体機能が低下した方は健康が維持され、生活の質も向上するでしょう。それぞれについて、詳しく解説していきます。

生活習慣病を予防できる

歩行介助を通じて歩く機会が増えると、生活習慣病の予防に大きな効果があります。厚生労働省の報告によると、1日1時間の歩行で、生活習慣病の発症リスクを数パーセント減少させることが期待できるといわれています。

 

歩くという身体活動は適度な有酸素運動となり、肥満予防や血糖値の改善にも役立ちます。また、血圧の安定や心機能の向上にも効果が期待できます。これらの効果により、糖尿病、高血圧、心臓病といった、生活習慣病のリスクを軽減できるかもしれません。

 

さらに歩行は全身運動であるため、筋力の維持や向上も期待できます。筋力が維持できれば代謝が上がり、肥満予防にもつながります。このように、歩行介助を通じて歩く機会を確保すると、生活習慣病を予防できる可能性もあるのです。

 

根拠となる情報のご提示をお願いいたします。

リハビリにつながる

歩行介助は、リハビリテーションの一環としても大きな意義があります。歩くという行為は単に身体を動かすだけでなく、脳への刺激も多く含んでいます。特に外出して歩くと、視覚や聴覚、触覚など多くの感覚器官が刺激され、脳の活性化につながるでしょう。

 

また、歩行介助によって外出の機会が増えると、社会との関わりも増えます。他者とのコミュニケーションは脳を活性化させ、認知機能の維持・向上に役立つでしょう。つまり、認知症の予防にも効果があると考えられます。

 

歩行は全身の筋肉を使う運動であり、筋力やバランス感覚の回復・維持に効果的です。特に下肢の筋力強化は、自立した日常生活を送る上で非常に大切です。

 

このように歩行介助を通じたリハビリは、身体機能の回復だけでなく、認知機能の維持や社会性の回復にも大きく役立ちます。したがって、歩行介助はリハビリテーションの一環として、非常に大きな役割を果たしていると言えます。

寝たきりになるリスクを軽減できる

歩行介助を通じて定期的に歩く習慣を維持すると、寝たきりになるリスクが大きく軽減します。高齢者や身体機能が低下した方が寝たきりになる主な原因の一つに、筋力の低下や転倒による骨折があります。歩行介助によって適切に歩く機会を確保すると、これらのリスクを軽減できるでしょう。

 

歩行は下肢の筋力を維持・向上させる効果があります。足腰の筋力が保たれると自力で立ち上がったり歩いたりする能力が維持され、日常生活の自立度が高まります。これは寝たきりを防ぐ上でたいへん重要です。

 

また、定期的な歩行によってバランス感覚や反射神経が鍛えられ、転倒のリスクが軽減します。転倒による骨折は、高齢者にとって寝たきりの大きな原因となるため、予防が極めて重要です。

 

さらに、歩行による全身運動は循環器系の機能を向上させ、心臓病や脳卒中などの発症リスクも低下させます。これらの疾患も寝たきりの原因となり得るため、できるだけ予防していきたいものです。

 

このように、歩行介助を通じて適切に歩く機会を確保すると、筋力維持、転倒予防、疾病予防など多くのメリットをもたらします。結果として寝たきりになるリスクを大きく軽減できます。

3歩行介助の種類と特徴

歩行介助には、対象者の状態や環境に応じてさまざまな種類があります。ここでは、主な歩行介助の種類とその特徴について解説します。

種類特徴適している状況や対象者
見守り歩行介助者は対象者の斜め後ろに立ち、直接触れずに見守る歩行が比較的安定している方
手引き歩行介助者と対象者が向かい合い、手を引きながら歩く短距離を移動する場合や転倒リスクが高い方
寄り添い歩行介助者が対象者の横に立ち、体を支えながら歩く麻痺がある方や歩行がやや不安定な方
階段昇降介助階段を上下する際の特殊な介助方法階段の利用が必要な場合
杖を使用した介助杖を使用する方の歩行を補助する杖での歩行が可能な方
歩行器具を使用した介助歩行器やシルバーカーなどを使用する方の介助歩行補助具の使用が必要な方

これらの介助方法は、対象者の身体状況や環境に応じて適切に選択する必要があります。たとえば、見守り歩行は比較的自立度の高い方に適していますが、転倒リスクが高い方には手引き歩行や寄り添い歩行がより安全です。

 

また、階段昇降介助は特に注意が必要で、転倒・転落のリスクが高いため適切な技術が求められます。杖や歩行補助具を使用する場合は、それぞれの補助具の特性を理解し、正しい使用方法を指導しながら介助しましょう。

 

介助者は、これらの介助方法の特徴と適応などを十分に理解し、対象者の状態や環境に応じて最適な方法を選択できることが大切です。また、状況に応じて柔軟に介助方法を変更できる能力も求められます。

4歩行介助の方法

歩行介助の方法は、対象者の状態や使用する補助具によってさまざまです。ここでは、主な歩行介助の方法について詳しく解説します。それぞれの方法には適した状況や対象者が異なるため、適切に選べるようになることが大切です。以下の6つの方法について、順に説明していきます。

  • 見守り歩行介助
  • 寄り添い歩行介助
  • 手引き歩行介助
  • 階段昇降における歩行介助
  • 杖を使用した歩行介助
  • 歩行補助具を使用した歩行介助

安全でより効果のある歩行介助を行うためには、これらの方法を適切に使い分けることが重要です。それぞれの方法について、特徴と注意点を理解し、実践してみましょう。

見守り歩行介助

見守り歩行介助は、対象者の体に直接触れずに行う介助方法です。歩行が比較的安定している方や、自立度の高い方に適しています。

 

【介助の手順】

  • 1. 介助者は対象者の斜め後ろに立つ
  • 2. 対象者の出す足と介助者の出す足を同じにし、出すタイミングも合わせる
  • 3. 右足→左足→右足とタイミングを合わせながら続ける

【介助のポイント】

  • 対象者の足元や周囲の環境に注意を払い、障害物や危険な場所がないか確認する
  • 対象者の歩行ペースに合わせ、急かしたり遅らせたりしないよう注意する
  • 声かけを適宜行い、対象者の安心感を高める
  • ふらつきや転倒の兆候が見られた場合、すぐに支えられる態勢をとる

見守り歩行介助は、対象者の自立を促すうえで重要です。直接的な介助を行わないため、対象者自身の能力を最大限に活かせるからです。ただし、転倒のリスクに備える必要はあります。常に迅速な対応ができるよう、態勢を整えておきましょう。

寄り添い歩行介助

寄り添い歩行介助は、介助者が対象者の横に立ち、体を支えながら歩く方法です。歩行がやや不安定な方や、麻痺がある方に適しています。

 

【介助の手順】

  • 1. 介助者は対象者の横(通常は利き手と反対側)に立つ
  • 2. 介助者の手を対象者の脇の下に入れ、もう一方の手で対象者の手首や前腕を軽く支える
  • 3. 対象者のペースに合わせてゆっくりと歩く

【介助のポイント】

  • 対象者の体重を支えすぎず、バランスをとる程度のサポートを心がける
  • 対象者の歩行リズムや歩幅に合わせて歩く
  • 対象者と介助者の出す足は同じにする(右足と右足、左足と左足)
  • 前方の障害物や段差に注意し、適宜声かけを行う

寄り添い歩行介助では対象者と介助者が同じ方向を向いて歩くため、周囲の状況を共有しやすい、身体のバランスを直接感じとりやすいといったメリットがあります。そのため、ふらつきや転倒の兆候にすぐに対応できます。

 

ただし、介助者は対象者の体重を部分的に支えることになるため、自身の姿勢や態勢にも注意が必要です。長時間の介助では介助者の疲労にも配慮し、適度に休憩をとりましょう。

手引き歩行介助

手引き歩行介助は、介助者と対象者が向かい合って立ち、手をとり合いながら歩く方法です。短い距離を移動する場合や、転倒リスクが高い方に適しています。

 

【介助の手順】

  • 1. 介助者は対象者と向かい合って立つ
  • 2. 対象者の両手を軽く握るか、肘を支える
  • 3. 介助者は後ろ向きにゆっくりと歩き、対象者を誘導する

【介助のポイント】

  • 対象者の表情や身体の動きを常に観察し、疲労や不安の兆候がないか確認する
  • 後方の安全確認を頻繁に行い、障害物や段差に注意する
  • 「いち、に、いち、に」など、リズムをつけた声かけをする
  • 介助者と対象者の出す足は左右逆にする(介助者の右足と対象者の左足)

手引き歩行介助は、対象者と介助者が向かい合うため、コミュニケーションをとりながら歩け、安心感を与えやすいメリットがあります。ただし、介助者が後ろ向きに歩くため、周囲の状況を特に注意して確認しましょう。

階段昇降における歩行介助

階段昇降における介助は転倒・転落のリスクが高いため、細心の注意を払って行いましょう。

  • 昇段の介助

【介助の手順】

1.介助者は対象者の斜め後ろ(一段下を目安)に立つ

2.対象者の腰や脇を支え、安定した姿勢を保つ

3.「手すり→良い方の足(健側)→悪い方の足(患側)」の順で昇る

 

【介助のポイント】

・階段の手すりを積極的に使用するよう促す

・一段ずつゆっくりと昇り、急かさない

・対象者の呼吸や疲労度に注意し、適宜休憩する

  • 降段の介助

【介助の手順】

1.介助者は対象者の斜め前(一段下を目安)に立つ

2.対象者の腰や脇を支え、安定した姿勢を保つ

3.「手すり→悪い方の足(患側)→良い方の足(健側)」の順で降りる

 

【介助のポイント】

・階段の手すりを積極的に使用するよう促す

・一段ずつゆっくりと降り、急かさない

・対象者の視線は階段の先ではなく足元に向けるよう指示する

 

階段昇降は体力を消耗しやすいため、対象者の体調や疲労度を常に確認しながら介助しましょう。また、介助者自身も安定した姿勢を保ち、転倒・転落につながらないよう注意が必要です。

杖を使用した歩行介助

杖を使用した歩行介助は、足の筋力低下やふらつきがある方に適しています。杖の種類や対象者の状態に応じて、適切な介助方法を選択します。

 

【介助の手順】

  • 1. 杖の長さを調整し、肘が30°ほど曲がる高さにする
  • 2. 対象者は、患側の足と反対側の手で杖を持つ
  • 3. 介助者は対象者が杖を持つ側の反対に立つ
  • 4. 対象者の脇の下と肘を軽く支え、歩行をサポートする

【介助のポイント】

  • 杖→患側の足→健側の足の順で歩行するよう指導する
  • 杖の先端が滑らないよう、定期的に点検する
  • 対象者の歩行ペースに合わせ、ゆっくりと歩く
  • 対象者の歩行能力に応じて、肘や手など支える部位を選択する

杖を使用した歩行介助では、杖の使用方法を正しく指導しましょう。杖の点検や調整を定期的に行うことも大切です。

歩行補助具を使用した歩行介助

歩行補助具を使用した歩行介助は、杖よりも高い安定性を求める場合に有効です。歩行器、キャスター付き歩行器、シルバーカーなど、さまざまな種類があります。

  • 歩行器

【歩行器を使用した歩行介助の手順】

1.歩行器の高さを調整し、やや前傾姿勢かつ、肘が軽く曲がる高さにする

2.介助者は対象者の斜め後ろに立つ

3.「歩行器→患側の足→健側の足」の順で歩行する。

 

【介助のポイント】

・歩行器と体の距離を適切に保つ(遠すぎると前に、近すぎると後ろへ転倒しそうになる)

・段差や障害物に注意し、必要に応じて声かけを行う

・対象者の疲労度を観察し、適宜休憩を取る。

  • キャスター付き歩行器

【キャスター付き歩行器の介助手順】

1.キャスターのない歩行器と同様の高さ調整をする

2.介助者は対象者の後方から腰や両脇を支える

3.対象者が一歩踏み出したら、介助者も一歩踏み出す

 

【介助のポイント】

・タイヤがスムーズに動くか確認する

・後方への転倒にも注意を払う

・坂道では特に慎重に介助を行う

  • シルバーカー

【シルバーカーを使用した歩行介助の手順】

1.ハンドルの高さを「身長÷2+5〜15cmほど」に調整し、ブレーキの効きを確認する

2.介助者は対象者の斜め後ろに立つ

3.必要に応じて脇の下を軽く支える

 

【介助のポイント】

・上半身の体重をシルバーカーに乗せすぎないよう注意する

・ロックのかけ忘れに注意し、適宜声をかける

・段差や傾斜に注意し、必要に応じて補助する

 

歩行補助具を使用した介助では、補助具の特性を理解し、適切な使い方を指導しましょう。安全のため定期的なメンテナンスも大切です。

5身体状況に適した歩行介助の方法

歩行介助を効果的に行うためには、対象者の身体状況に合わせて適切な方法を選択しましょう。対象者のもつ疾患や症状によって、注意すべき点や効果的な介助方法が異なるからです。ここでは、以下4つの疾患・身体状況に応じた歩行介助の方法について詳しく解説します。

  • 認知症の方の場合
  • 片麻痺がある方の場合
  • パーキンソン病の方の場合
  • 半側空間無視がある方の場合

それぞれの状況における注意点や具体的な介助方法を見ていきましょう。

認知症の方の場合

認知症の方への歩行介助では、認知機能の低下による認識や判断力の低下などに注意しましょう。まず、行き先に誘導する際、言葉だけでは十分に伝わらないことがあります。そのため、目で見てわかる手がかりを利用するとよいでしょう。たとえば、目印を置いたり、矢印などのサインを使うことで、簡単に行き先がわかる場合があります。

 

また、認知症の方は突然行動が変わったり、不安感を示したりすることがあるため、介助者は常に穏やかな態度で接し、安心感を与えましょう。対象者が不安になっているときは、手引き歩行介助で顔を合わせながら歩くと、不安感の軽減につながることもあります。

 

環境の変化に不安感を示す方には、慣れた場所で歩くことがおすすめです。新しい場所では混乱する可能性があるため、歩く環境にも配慮しつつ、声かけするとよいでしょう。

片麻痺がある方の場合

片麻痺がある方の歩行介助では、麻痺側の介助と健側の活用が重要です。まず、介助者は麻痺側に立ち、対象者の腰を軽く支えます。この際、衣類をつかむのではなく、直接身体を支えるようにしましょう。もう一方の手で麻痺側の肘を軽く支え、バランスをとりやすくします。

 

歩行の順序は、「杖→麻痺側の足→健側の足」が基本です。杖は健側の手で持ち、麻痺側の足よりも少し前に突きます。介助者は対象者の歩行リズムに合わせ、ゆっくりと歩きましょう。

 

介助の際は転倒リスクを軽減するため、麻痺側の足が引っかからないよう注意が必要です。また、対象者が健側に重心を傾けすぎないよう、適度に支えましょう。歩行中は常に相手の表情や疲れ具合を観察し、必要に応じて休憩することも大切です。長距離の歩行が難しい場合は、車椅子を併用してもよいでしょう。

パーキンソン病の方の場合

パーキンソン病の方への歩行介助では、特有の症状に注意しましょう。主な症状には以下のとおりです。

  • すくみ足(最初の一歩が出にくい)
  • 小刻み歩行
  • 前傾姿勢
  • 加速歩行(歩行速度が徐々に速くなる)

これらの症状に配慮した介助方法を選択します。

 

すくみ足には、床に線を引いたり、歩幅の目安となるものを置いたりすると、最初の一歩を踏み出しやすくします。また、リズミカルな声かけや音楽を利用すると、歩行のリズムを作りやすくなります。小刻み歩行や前傾姿勢に対しては、大きな歩幅で歩くよう促し、体をまっすぐに保つよう声かけしましょう。

 

加速歩行に対しては、歩行のペースを意識的にコントロールするよう促します。介助者は対象者の横に立ち、必要に応じて腰や脇を支えましょう。スピードが上がってしまったら、一度止まって再び歩くことも有効です。疲れにも配慮し、適度に休憩しましょう。

半側空間無視がある方の場合

半側空間無視とは、左側(もしくは右側)にあるものを見落としたり、存在に気づかなくなったりしてまるで無視しているかのように見える症状です。半側空間無視がある方への歩行介助では、対象者が認識しづらい側へ意識を促すことが重要です。介助者は相手が認識しづらい側に立ち、常にその方向から声をかけたり刺激を与えたりします。左側に半側空間無視がある場合、介助者は相手の左側に立ち、声をかけたり触れたりしましょう。

 

歩行中は、認識しづらい側にある障害物や段差に、特に注意します。必対象者の視線を必要に応じて、意識的にその方向に向けるよう促しましょう。また、歩く経路を示す際は、認識しづらい側に目立つマーカーや目印を置き、気づきやすく配慮することも大切です。

 

声をかける際は、認識しやすい側から行いましょう。、右側からの声かけに反応しやすい場合は、まず右側から声をかけ、徐々に左側へ注意を促します。歩行中は常に相手の状態を観察し、バランスを崩していないか、障害物に接近していないかなどを確認します。また、身体機能に応じて歩行補助具の使用も検討しましょう。

6歩行介助の観察ポイント

安全で効果的に歩行介助を行うためには、対象者の状態を適切に観察することが大切です。観察して得られた情報を、介助方法の選択や転倒リスクの予測に役立てましょう。以下に、歩行介助時に見ておきたい主なポイントを列挙します。

  • 歩行の意志:対象者に歩く意志があるかを確認します。意志がない場合は介助量が増え転倒の危険性が高くなる可能性があるため、無理に歩かず、車いすなど別の移動手段を検討します。
  • 歩行時の姿勢:背中が丸まっていないか、体が傾いていないかなど、全体的な姿勢を観察します。
  • 歩幅や速度:歩幅や歩行速度が一定か、リズムが突然変化していないかなどを確認します。
  • バランス保持能力:歩行中のふらつきや、立ち止まった時のバランスを観察します。
  • 疲労の兆候:息切れや表情の変化、歩行速度の低下などから疲労度を判断します。
  • 周囲の環境認識:対象者が周囲の障害物や段差に気づいているかを確認します。

これらの観察ポイントを踏まえ、対象者の状態に応じた適切な介助を行いましょう。観察結果を記録し、他の介護スタッフと共有することで、より一貫性のある歩行介助ができるようになります。

7歩行介助の注意点

転倒のリスクを軽減し、対象者の安全を確保するためには、以下5つの注意点を理解しておきましょう。

  • 対象者の体調を確認する
  • 障害物がないか確認する
  • 靴や服装の種類に問題はないか確認する
  • 歩行補助具に問題はないか確認する
  • 休憩をとる

より安全に歩行介助を行うためにも、以下で解説する注意点を参考にしてください。

介助する人の体調を確認する

最初に確認すべき重要なポイントは、対象者の体調を確認することです。体調が悪いと転倒のリスクが高くなる場合があるため、事前に十分確認しておきましょう。

 

具体的には、以下の点を確認します。

  • 発熱
  • 気分の悪さ
  • 腰痛
  • 身体の動きの違和感

また「今日は気分が乗らない」「体がいつもより重く感じる」といった、些細な変化も見逃さないようにしましょう。体調確認は歩く前だけでなく、介助中も適宜行ってください。介助者は常に声をかけ、疲れやふらつきが生じていないか観察します。

障害物がないか確認する

歩く経路に障害物がないか、事前の確認も重要です。転倒の原因となる障害物を事前に取り除いておきましょう。

 

室内では、電気コードや玄関マットなど、つまずきやすい物に注意が必要です。また、十分な歩行スペースを確保するため、廊下や階段に物を置かないよう心がけましょう。大きな段差よりも小さな段差の方がつまずきやすいため、敷居や部屋と廊下の間にある段差などにも注意します。

 

屋外の場合は、雨や雪で道路が滑りやすくなっていないか、車の通行が多くないかなど、周囲の環境にも気を配りましょう。特に車道の近くを通る際は、介助者が車道側に立って見守りするなど、安全に十分配慮します。

靴や服装の種類に問題はないか確認する

歩行に適した服装や靴を選ぶことも大切です。

 

靴に関しては、スリッパやサンダルなどかかとのないものは避けましょう。これらは脱げやすく滑りやすいため、転倒の危険性が高くなります。足のサイズに合った、軽くて滑りにくい靴を選びましょう。滑り止めが付いている靴もおすすめです。また、靴を履いていてもかかとを踏んでいないかどうかも、あわせて見ておきましょう。

 

服装については、ズボンの丈が長すぎたり、ウエストが緩すぎたりしていないか確認してください。長すぎるズボンは裾を踏んでしまう危険があり、緩いウエストは急にズボンが下がって気をとられてしまうことがあります。体型に合った服装を選びましょう。

 

また、室内で靴を履かない場合は、滑り止めのついた靴下を履くか、裸足になってもらうことも有効です。

補助器具に問題はないか確認する

歩行介助で補助具を使う場合は、使用前の点検や定期的なメンテナンスをしましょう。

 

杖や歩行器などの歩行補助具は、気づかないうちに破損や劣化している場合があります。特に注意が必要なのは、杖や歩行器先端のゴムです。摩耗や劣化が進むと滑りやすくなり、転倒リスクが高まります。

 

キャスター付きの歩行器やシルバーカーを使用する場合は、ネジの緩み、タイヤのすり減り、フレームの歪み、ブレーキのかかり具合などをチェックしてバランスを崩さないようにしましょう。

 

最低でも月に1回は定期的にメンテナンスし、使用前の点検も必ず行います。管理を怠って事故や怪我を起こさないようにしましょう。

休憩をとる

無理な歩行は疲労を蓄積させ、転倒リスクを高める原因となります。適度に休憩をとり入れましょう。

 

歩行介助を行うにあたって、休憩できる場所を事前に確認しておくことが大切です。「いつもなら歩ける距離だから大丈夫」と思っていても、その日の体調によっては急に歩けなくなることもあります。短い距離でも、休憩場所を確保しておくことで安心して歩行介助を行えます。

 

歩行中は、対象者の様子を常に観察し、疲れている様子があれば、積極的に休憩しましょう。定期的な水分補給も大切です。

 

屋外で休憩場所の確保が難しい場合は、他のスタッフに事前に連絡しておいたり、携帯電話を持参して緊急時に連絡がとれるようにするなど、対策をとっておきましょう。

8補助器具を使用する際のポイント

補助器具を使用した歩行介助は、介助を受ける方の安全と自立を支援する重要な器具です。杖や歩行器、シルバーカーなどの補助器具を効果的に活用することで、転倒リスクを軽減し、より安全な移動を実現できます。しかし、補助器具の使用には特有の注意点があり、適切な介助方法を理解することが不可欠です。

 

ここでは、補助器具を使用する際の重要なポイントについて、以下の3つの観点から詳しく解説していきます。

  • 介助者の立ち位置
  • 歩行介助の手順
  • 歩行ペース

これらのポイントを押さえることで、より効果的で安全な補助器具の使用が可能になります。それでは、各ポイントについて詳しく見ていきましょう。

介助者の立ち位置

補助器具を使用する際の介助者の立ち位置は、安全性と即時対応の観点から非常に重要です。基本的な立ち位置は、介助を受ける方の「斜め後方」です。まず、「斜め後方」に立つことで、介助を受ける方の全体的な動きを観察しやすくなります。歩行の様子や姿勢の変化、バランスの乱れなどを素早く察知することもできます。また、この位置からは介助を受ける方の表情も確認しやすく、疲労や不安の兆候を見逃さずにキャッチできるでしょう。

 

さらに重要なのは、「斜め後方」の位置が、ふらつきや転倒の際に即座にサポートできる最適な場所だということです。介助を受ける方がバランスを崩した場合、すぐに脇や腰を支えることができ、転倒を未然に防ぐことができます。

 

ただし、介助を受ける方の状態や使用している補助器具によっては、立ち位置を微調整する必要があります。たとえば、片麻痺がある場合は麻痺側に近い位置に立つなど、個別の状況に応じた対応が求められます。

歩行介助の手順

補助器具を使用した歩行介助では、適切な手順を踏むことが安全性と効率性の向上につながります。基本的な手順は、「補助器具の移動→動かしにくい方の足(患側)→動かしやすい方の足(健側)」の順番で行います。

 

まず、補助器具(杖や歩行器など)を前方に移動させます。これにより、安定した支持基盤を確保します。次に、動かしにくい方の足(患側)を前に出します。片麻痺がある場合は、麻痺側の足がこれに当たります。最後に、動かしやすい方の足(健側)を前に出して一歩とします。

 

この順序を守ることで、常に安定した3点支持(補助器具と両足)または4点支持(歩行器と両足)を維持しながら歩行することができ、転倒リスクを最小限に抑えることができます。

 

介助者は、この手順をわかりやすく説明し、必要に応じて声かけをしながら歩行を誘導します。「杖を前に出してください」「左足(患側)を前に」「右足(健側)を出しましょう」といった具体的な声かけが効果的です。

 

また、階段の昇降時には手順が少し変わるため、状況に応じた適切な指示を心がけましょう。

歩行ペース

補助器具を使用した歩行介助において、適切な歩行ペースを保つことは非常に重要です。介助を受ける方の体力や体調、使用している補助器具の特性に合わせて、無理のない安全なペースで歩行することが求められます。

 

介助者は、積極的に声かけを行いながら、介助を受ける方の歩行ペースや歩幅に合わせることが大切です。たとえば、「イチ、ニ、イチ、ニ」といったリズミカルな声かけは、安定した歩行リズムの維持に役立ちます。また、「ゆっくりでいいですよ」「小さな歩幅で大丈夫です」といった励ましの言葉も、安心感を与え、無理のない歩行を促します。

 

歩幅については、補助器具と体の距離が近すぎたり遠すぎたりしないよう注意が必要です。適度な歩幅を保つことで、バランスを崩すリスクを減らすことができます。介助者は、介助を受ける方の歩幅を観察し、必要に応じて調整を促します。

 

また、疲労の兆候が見られた場合は、すぐに休憩を取ることを提案しましょう。無理に歩行を続けることは転倒リスクを高めるため、介助を受ける方の体調と意思を尊重しながら、適切なペース配分を心がけることが重要です。

9歩行介助もできるイチロウのサービス

イチロウは、介護保険外サービスとして、柔軟で幅の広く生活支援が可能です。歩行介助を含む多様な日常生活のサポートをしており、介護保険でカバーできない細やかなニーズにも対応できます。

 

たとえば、買い物の同行や通院の付き添い、外出支援などにも対応しております。要介護認定を受けていない方や、介護保険サービスだけでは対応しきれないニーズがある方にとって、特に有用です。

 

利用のタイミングとしては、たとえば突発的な通院が必要になった場合や、家族の介護負担を軽減したい場合などが考えられます。また、介護保険サービスの利用限度額を超えた場合の追加サポートとしても活用できます。

 

料金は都道府県ごとに異なりますが、1時間あたりおよそ3,190円から設定されており、必要な時間だけの利用も可能です。詳細な料金については、イチロウの公式ウェブサイトで確認していただくか、直接お問い合わせください。

10まとめ

歩行介助は、身体機能が低下した高齢者などの自立と安全を支援する重要な手段です。適切な歩行介助によって、対象者の生活の質を向上させることができますが、基本的な介助の方法や注意点を押さえておかないと、転倒やけがの危険性があります。

 

歩行介助には、見守り、触れて行う介助、歩行補助具を使用した介助など、さまざまな方法があります。また、介助を行う際には、対象者の体調、歩行環境、使用する物品など、多岐にわたる点に気を配る必要があります。介助者の適切な立ち位置、正しい手順、適切な歩行ペースの維持など、安全で効果的な歩行介助を行うためには多くの要素に注意を払うことが求められます。

 

これらの基本と注意点をしっかりと押さえ、対象者に最も適した歩行介助を行うことで、メリットを最大限に得ることができます。また、対象者の個別の状況や能力を十分に理解し、その方に最適な支援を提供することで、より安全で効果的な介助が可能になります。安全性を確保しつつ、できる限り自立を促す介助を心がけることが重要です。

 

本記事で学んだ内容を実践に活かし、安全で効果的な歩行介助を行ってください。歩行介助の技術を磨き、常に最新の知識を取り入れることで、より質の高い介護サービスの提供につながります。

 

なお、介護保険サービスでは対応できないニーズに対しては、イチロウのような介護保険外サービスの活用も有効な選択肢となります。状況に応じて、適切なサービスを選択することも検討してみてください。

監修者情報

所属:介護老人保健施設メディトピア小諸

経歴:2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。リハビリテーション業務の傍ら、ライターとしても活動している。医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆を心がけている。

保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級

鈴木康峻(理学療法士)
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