介護にまつわるお役立ちコラム

要介護5の在宅介護は無理?続けるためのポイントと活用できるサービス・制度を解説

2024年10月30日

要介護5は介護保険制度で最も重度の状態を指し、多くの方が在宅介護は困難だと考えがちです。しかし、適切なサポートとサービスを活用すれば、要介護5でも在宅介護は不可能ではありません。本記事では、要介護5の方の在宅介護を継続するためのポイントと、活用できるサービスや制度について詳しく解説します。

1そもそも要介護5とは

要介護5とは、介護保険制度における要介護認定の中で、最も介護の必要度が高い状態を指します。日常生活のほとんどすべてにおいて介護が欠かせない状況にあり、自力での生活が極めて困難な状態です。

要介護5の認定基準とは?在宅介護は無理?

要介護5の認定は、「要介護認定等基準時間」という指標に基づいて行われます。これは、入浴や食事、排せつなどの直接的な介護、洗濯や掃除などの間接的な介護、徘徊への対応や機能訓練、輸液の管理や褥瘡の処置などの医療的ケアの5つに分類された項目について、それぞれに要する時間を合計したものです。この基準時間が1日あたり110分以上、またはそれに相当する状態であると要介護5と認定されます。

平成28年(2016年版)高齢社会白書によれば、介護保険サービスを利用している要介護5の方のうち、45.0%が居宅サービスを利用しており、重度の要介護状態であっても、在宅での生活を続けている人が一定数存在することがわかります。

具体的な状態は?

要介護5の状態とは、常に介護を必要であり、介護なしには日常生活を営むことがほぼ不可能な状態です。具体的には以下のような状態が考えられます。

  • ベッド上での生活がほとんどで、座位を保つことも困難
  • 食事は全面的な介助が必要で、経管栄養や胃ろうの場合もある
  • 排せつは全介助で、おむつやカテーテルを使用している
  • 移乗や移動には全面的な介助が必要で、車いすを使用している
  • 意思疎通が困難で、コミュニケーションに支障がある
  • 認知症による問題行動や徘徊がみられる場合もある

重度の要介護状態に至る主な原因としては、脳血管疾患(脳卒中)や認知症です。また、高齢者では、転倒による大腿骨(股関節から膝まである太ももの骨)の骨折も、寝たきりになるリスクを高めます。

2要介護5の在宅介護を続けるポイントとは?

公益財団法人生命保険文化センターの「リスクに備えるための生活設計」によると、介護の平均期間は5年1カ月で、さらに17.6%が10年以上の長期にわたって介護を続けています。一方、厚生労働省のe-ヘルスネットのデータを見ると、2019年時点の日本人の健康寿命は男性で72.68歳、女性で75.38歳です。しかし、平均寿命は年々伸びており、2019年時点では男性が81.41歳、女性が87.45歳に達していて、健康上の問題で日常生活に制限が生じてから亡くなるまでの期間が、長くなっていることがわかります。

 

要介護5は、ほぼ寝たきりの状態で常時の介護が必要となるため、家族の負担は計り知れません。介護の長期化を見据えた、無理のない介護計画を立てる必要があります。ここからは、在宅介護を続けるためのポイントを詳しく見ていきましょう。

ケアマネジャーなどに相談する

要介護5の在宅介護を続けていく上で何より大切なのは、一人で抱え込まないことです。介護の悩みや不安を、身内や親族だけでなく、ケアマネジャーや地域包括支援センター、自治体の窓口、医療機関など、専門の相談先に打ち明けましょう。

 

特に、ケアマネジャーは介護保険サービスの利用計画であるケアプランを作成し、その方に合った支援やサービスを提案してくれる心強い存在です。介護でのストレスや疑問など、些細なことでも相談に乗ってもらえます。また、地域包括支援センターは、介護をはじめ高齢者に関するあらゆる相談に対応する公的機関です。自治体や医療機関にも介護に関する相談窓口が設けられています。

在宅介護で使える介護保険サービスを活用する

要介護5と認定されると、在宅介護を支えるさまざまな介護保険サービスを利用できます。自宅に訪問してもらうサービスや、日中に施設に通うサービス、一時的な宿泊サービスなど、多岐にわたるサービスを組み合わせることが可能です。これらのサービスを活用することで、家族の介護負担を大幅に軽減することができます。自分たちの生活スタイルや状況に合ったサービスを選択し、上手に利用していくことが在宅介護を継続するカギとなります。

在職中なら会社の制度を利用する

総務省の「平成29年就業構造基本調査」によると、働きながら介護をしている人は全体の半数以上を占めており、特に50代までの介護者の多くが仕事との両立に悩んでいます。こうした中で、就業者が介護休暇を取得する権利が法律で定められています。休暇の日数や取得方法は企業によって異なりますが、年5日間の取得は可能です。また、所定外労働や時間外労働、深夜業の制限なども利用できます。

 

介護と仕事の両立のためには、まず会社の上司や人事担当者に相談しましょう。会社に理解を求めることで、上司や同僚のサポートも得られるはず。仕事を続けながら介護をしていくには、周囲の協力を得ながら、無理のない方法を見つけていくことが何より重要です。

介護保険外サービスの利用も検討する

介護保険外サービスは、同居家族の家事援助や、趣味や散歩のための外出介助、ペットの世話など、介護保険ではカバーできない生活支援サービスが利用できます。

 

介護保険外サービスは介護保険の枠組みにとらわれない柔軟なサービス提供が可能なため、利用者一人ひとりの状況に合わせたきめ細やかな支援を受けられることが大きなメリットです。ただし、利用料は全額自己負担となるため、経済的な負担が大きくなるため注意が必要です。

介護施設への入居も選択肢に入れておく

要介護5の方(方)の在宅介護を長く続けていくと、家族の心身の負担が大きくなります。在宅介護にこだわるあまり、家族が心身ともに追い詰められてしまうケースも少なくありません。そうなると介護者自身が健康を損ない、結果的に要介護者に十分なケアができなくなってしまうこともあります。こうした事態を避けるためにも、介護施設への入居を選択肢の一つとして考え、情報収集を進めておきましょう。

3要介護5で利用できる介護保険サービス

要介護5の方(方)は、常時の介護が欠かせません。そのため、介護保険で提供されるあらゆるサービスを制限なく利用することができます。介護保険サービスには、在宅介護サービスと介護施設があります。具体的に見ていきましょう。

在宅介護で利用可能な介護保険サービス

要介護5の方が在宅で利用できる介護保険サービスは多岐にわたります。主な在宅介護サービスの種類とその概要を表にまとめました。ケアマネジャーと相談しながら、個々の状況に合わせた最適なケアプランを作成しましょう。

訪問介護・ホームヘルパーが自宅を訪問
・食事や排せつ、入浴などの介護を行う
・掃除や洗濯、買い物などの生活支援を実施する
訪問看護・看護師や保健師が自宅を訪問
・主治医の指示をもとに、療養上の世話や診療の補助をする
訪問入浴介護・看護師と介護職員が自宅を訪問
・移動式浴槽を使用して入浴の介助を行う
・寝たきりの方でも安全に入浴できる
訪問リハビリテーション・理学療法士や作業療法士が自宅を訪問
・日常生活の自立を助けるためのリハビリを行う
通所介護(デイサービス)・日中、デイサービスセンターに通う
・食事、入浴などの日常生活上の支援や、機能訓練などを日帰りで受ける
・レクリエーションを行うところもある
短期入所生活介護(ショートステイ)・介護施設に短期間宿泊する
・食事、入浴、排せつなどの介護や機能訓練などを受ける
・介護者の休養や急用の際に利用する
福祉用具貸与・日常生活の自立を助ける福祉用具を借りる
・車いす、介護ベッド、歩行器などが対象
要介護5の入居可能な介護施設一覧

介護施設にはそれぞれ特徴があり、入居者の状態や希望に応じて選択することができます。以下の表に、主な介護施設の種類とその概要をまとめました。

介護保険施設介護老人保健施設・在宅復帰を目指している方に適している
・リハビリや必要な医療、介護などを行う
・医師や看護師が常駐している
・終身利用はできない
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・常時介護が不可欠で、自宅での生活が困難な方が優先的に入所
・食事、入浴、排せつなどの日常生活全般の介護を行う
・終身での入所が可能
介護医療院・長期的な医療と介護のニーズがある高齢者が対象
・医療的ケアと生活施設としての機能を兼ね備えている
・医師や看護師が24時間体制で常駐している ・ターミナルケアにも対応
特定施設入居者生活介護介護付き有料老人ホーム・食事、入浴、排せつなどの介護を受けられる
・24時間体制で介護スタッフが常駐している
・居室は全て個室で、プライバシーが保たれる
ケアハウス・食事の提供や生活相談などのサービスを行う
・介護が必要な場合は、介護サービスを利用できる
・比較的低料金で入居できる
地域密着型グループホーム(認知症対応型共同生活介護)・認知症の高齢者が対象
・少人数での共同生活を送る
・食事、入浴、排せつなどの日常生活の介護を受けられる
・家庭的な雰囲気の中で生活できる
4要介護5の介護費用はどのくらい?

要介護5は、日常生活のほぼすべての場面で介助が必要なため、他の要介護度と比較して、介護費用が高額になる傾向があります。要介護5の方の介護費用について、費用目安を見ていきましょう。

在宅介護の場合

在宅で要介護5の方を介護する場合、多くのサービスを組み合わせて利用することになります。以下は、在宅介護にかかる主な費用項目とその概算です。

介護保険サービスの自己負担額要介護5の場合、区分支給限度基準額が最も高く設定されているため、多くのサービスを利用しても、自己負担は月に数万円程度
福祉用具のレンタル費用特殊ベッドや車いすなどの福祉用具をレンタルする場合、月に数千円から1万円程度の費用がかかる
おむつ代要介護5の方は常時おむつを使用することが多く、その費用は月に1万円前後
食費介護食を利用したり、調理に手間がかかったりすることで、通常よりも食費が高くなることがあります。月に数万円程度を見込んでおくとよい
水道光熱費入浴の回数増加や医療機器の使用などにより、水道光熱費が増加することがあります。月に数万円程度を想定しておくとよい
医療費要介護5の状態では、定期的な通院や薬の服用が必要になることが多く、医療保険の自己負担額として、月に数千円から数万円程度かかる

これらの費用を合計すると、在宅介護の場合、月々の総費用は10万円台後半から20万円程度になります。ただし、これはあくまで目安であり、実際の費用は利用するサービスの内容や頻度、地域の物価などによって大きく変動します。

施設介護の場合

介護施設に入居した場合の費用は、施設の種類や提供されるサービスの内容によって大きく異なります。一般的な介護施設に入居した場合の主な費用項目とその概算をまとめました。

居住費・管理費施設の立地や設備によって大きく異なりますが、月に数万円から10万円以上かかることがある。特に都市部の高級施設では、20万円を超える場合もある
食費一日3食分の食事代として、月に数万円程度
介護サービス費要介護5では多くのサービスを利用することになりますが、介護保険の自己負担分として月に数万円程度
水道光熱費施設によっては居住費に含まれる場合もありますが、別途請求される場合は月に1万円から数万円程度
おむつ代常時おむつを使用する場合が多く、月に1万円前後
医療費施設内での医療サービスや外部の医療機関への通院費用として、月に数千円から数万円程度

これらの費用を合計すると、介護施設に入居した場合の月々の総費用は、20万円から30万円程度になります。特別養護老人ホームのような公的施設の場合は比較的低額で、15万円程度で済むこともあります。一方、高級な介護付き有料老人ホームなどでは、月々50万円以上かかるケースもあります。

 

ほかにも、立地、提供されるサービスの内容によって費用は変わります。介護保険サービス以外の個別のオプションサービスを利用する場合は、追加費用が発生することも。また、入居時に高額の一時金が必要な場合もあります。

5要介護5でもらえるお金はある?給付金を利用しよう

要介護5の状態は、介護者にとって身体的にも精神的にも大きな負担です。しかし、この負担を軽減するための様々な給付金制度が存在することをご存知でしょうか。これらの制度を活用することで、介護にかかる費用の一部を補てんし、経済的負担を軽減することができます。

 

ここでは、要介護5の方やその介護者が利用できる主な給付金制度について詳しく解説します。

家族介護慰労金

家族介護慰労金は、要介護4または5の高齢者を在宅で介護している家族に対して支給される給付金です。対象は、介護保険サービスや施設入所、長期入院を1年間利用せずに介護を続けた同一世帯の家族で、住民税非課税世帯であることが一般的な条件です。ただし、ショートステイについては年間7日程度までの利用は認められています。

 

この制度は各市町村が独自に実施するため、支給額や細かい要件は地域によって異なります。多くの自治体では年間10万円程度を支給していますが、5万円から30万円以上まで幅があります。申請方法や必要書類も市町村ごとに異なるため、詳細はお住まいの市区町村役場に確認しましょう。

介護休業給付金

介護休業給付金は、家族の介護のために仕事を休む必要がある労働者を支援するための制度です。この制度は雇用保険の被保険者が対象で、要介護状態にある家族を介護するために休業したときに利用できます。

 

支給要件は、介護休業開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上あり、介護休業期間中に賃金が支払われていないこと、もしくは支払われた賃金が休業開始時賃金日額の80%未満であることです。

 

給付対象期間は、対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割して取得することができます。給付額は、休業開始時賃金日額の67%相当額です。ただし、上限額が設定されているため、高額所得者の場合は実際の給付率が低くなる可能性があります。

 

この制度を利用するためには、事前に会社に介護休業の申し出をする必要があります。また、休業終了後に必要書類を揃えてハローワークに申請します。

特定福祉用具購入費の支給制度

福祉用具購入費の支給制度は、介護保険の給付対象となる特定福祉用具を購入した際に、その費用の一部が支給される制度です。

 

対象者は要介護認定または要支援認定を受けた方で、在宅で生活している人に限られます。また、都道府県等の指定を受けた特定福祉用具販売事業者から購入する必要があります。支給額は、購入費用の9割(一定以上所得者は8割または7割)で、支給限度額は年間10万円です。

 

制度の対象となる福祉用具には、以下のようなものがあります。

  • 腰掛便座:洋式便器の上に置いて高さを調整したり、ポータブルトイレとして使用したりするもの
  • 自動排せつ処理装置の交換可能部品:尿や便を自動的に吸引し処理する装置の交換可能な部品
  • 排せつ予測支援機器:排せつのタイミングを予測し、トイレ誘導を支援する機器
  • 入浴補助用具:浴槽への出入りや浴室内での移動を補助する用具
  • 簡易浴槽:持ち運びや収納が可能で、介護者が入浴介助を行いやすい浴槽
  • 移動用リフトのつり具:天井走行リフトなどに取り付けて使用する吊り具の部分
6まとめ

要介護5は介護保険制度において最も重度の要介護状態ですが、適切な支援とサービスを活用することで在宅介護の継続は可能です。それには、介護保険サービスや介護保険外サービス、各種給付金制度を最大限に利用し、ケアマネジャーや家族、職場の協力を得ることが重要です。また、在宅介護と施設介護のそれぞれの特徴を理解し、状況に応じて柔軟に選択することで、要介護者の生活の質を維持しつつ、介護者の負担を軽減できます。

 

介護に関する知識を深め、利用可能な制度やサービスを積極的に活用することで、より良い介護生活を実現することができるでしょう。

監修者情報

保健師歴15年介護職歴5年のフリーランスWebライター。ケアマネージャー経験あり。現在は、遠距離介護を続けつつ、当事者および支援者の立場から、介護や福祉に関する記事を執筆中。

古賀優美子(保健師、介護支援専門員)
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