介護にまつわるお役立ちコラム

親・家族の介護による退職の実態やリスクとは?対応策として各種制度なども紹介

2024年07月05日

親や家族の介護を理由に仕事を辞める介護離職は、年間約11万人の方が直面している深刻な問題です。介護離職は収入の減少や再就職の難しさなど、さまざまなリスクを伴います。しかし、介護休暇や介護休業など、仕事と介護の両立を支援する制度を活用することで、離職を回避できる可能性があります。この記事では、介護離職の実態やリスクについて解説するとともに、介護離職を防ぐための対応策についても紹介します。

1親や家族の介護による退職の実態

我が国では高齢化が急速に進行しており、それに伴って要介護者の数も増加の一途をたどっています。そのような中、親や家族の介護を理由に仕事を辞めざるを得ない状況に直面する人々が後を絶ちません。介護離職は、介護者個人の人生設計に大きな影響を与えるだけではなく、企業にとっても貴重な人材を失うことを意味します。ここでは、介護離職の現状について解説していきます。

年間約11万人が介護・看護のために退職

総務省が実施した「令和4年就業構造基本調査」の結果によると、2022年10月から1年間で介護・看護を理由に前の職を離職した人の数は10万6,000人でした。男女別の内訳を見てみると、男性が2万6千人、女性が8万人となっており、女性の割合が圧倒的に高いとわかります。また、介護離職者の年齢層に目を向けてみると、40代から50代が中心となっています。つまり、企業の中核を担う世代が介護を理由に離職しているのが実情なのです。

 

この数字は、介護離職が社会全体の問題として捉えるべき深刻な事態であることを如実に示しています。単に個人の問題として片付けるのではなく、企業や行政、そして社会全体で解決に向けて取り組んでいく必要があるでしょう。介護離職を防ぐための支援制度の充実や、介護と仕事の両立を可能にする職場環境の整備など、多角的な対策が求められています。

介護による退職の理由

では、なぜ多くの人々が介護を理由に退職を選ばざるを得ないのでしょうか。厚生労働省が行った「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」調査では、介護離職の主な理由として、「仕事と介護の両立が難しい職場だったため」が59.4%と最も多く、次いで「介護をする家族・親族が自分しかいなかったため」が17.6%、「自分の心身の健康状態が悪化したため」が17.3%となっています。

 

この結果から読み取れるのは、職場環境や家族の状況、そして自身の健康面など、複合的な要因が介護離職の背景にあるということです。仕事と介護の両立が困難な職場環境では、介護に必要な時間や労力の確保が難しくなります。また、介護をする家族が自分しかいない状況では、介護の負担が一人に集中してしまい、心身ともに疲弊してしまうのは容易に想像できます。加えて、介護による心身の疲労が蓄積、健康状態が悪化し、仕事を継続することが困難になるケースもあるのです。

 

介護離職を防ぐためには、これらの要因に対して適切な支援を提供していくことが不可欠です。例えば、介護休暇制度の充実や柔軟な働き方の導入など、仕事と介護の両立を可能にする職場環境の整備が求められます。また、地域における介護サービスの拡充や、介護者の心身のケアを行う体制の構築なども重要な課題となるでしょう。

介護による退職後の精神面・経済面の変化

介護離職は、介護者の生活に多大な影響を及ぼします。先述の厚生労働省の調査では、介護離職後の生活について、「非常に負担が増した」と回答した人の割合が、精神面で30.2%、肉体面で24.0%、経済面で34.1%に上ることが明らかになっています。

 

介護に専念できるようになる一方で、収入が減少による経済的な不安は大きな負担となります。また、社会とのつながりが希薄になり、孤独感や疎外感を感じる人も少なくありません。介護という重責を一人で背負い込み、精神的に追い詰められてしまうケースもあるのです。さらに、「非常に負担が増した」と「負担が増した」を合わせると、精神面と身体面では50%超、経済面では70%近くに達しており、介護離職が介護者の生活を大きく圧迫していることがわかります。

 

介護離職者の生活を支えるためには、メンタルヘルスケアはもちろん、経済的な支援の充実も欠かせません。例えば、介護者の交流の場を設けたり、カウンセリング体制を整えたりするなど、介護者の心身の負担を軽減するための取り組みが必要不可欠です。また、介護離職後の再就職支援なども、生活の安定を図る上で重要な役割を果たすでしょう。

2親・家族の介護による退職のリスク・問題

親や家族の介護のために、やむを得ず退職を選択することには、一時的には介護に専念できるというメリットがあるかもしれません。しかし、長期的な視点で見ると、介護離職にはさまざまなリスクが潜んでいます。

収入が不安定の中で支出が増加する

介護離職によって安定した収入を失うのは、大きな経済的リスクを伴います。一方で、介護にかかる費用は想像以上に多岐にわたります。おむつや介護用品の購入、介護サービスの利用料、住宅のバリアフリー化のためのリフォーム費用など、次々と出費がかさんでいきます。

 

貯蓄を切り崩して生活費をまかないますが、介護期間が長引けば、いずれ底をつくのは明白です。加えて、介護離職によって将来受け取るのができる年金額も減少してしまうため、自身の老後資金が不足する危険性も高まります。つまり、目先の介護費用をまかなうために退職を選択するので、将来的により深刻な経済的問題を抱えてしまう可能性があるのです。

 

介護離職を防ぐためには、介護にかかる費用を可能な限り抑えつつ、収入を確保する方策を講じるのが重要となります。例えば、介護保険サービスを効果的に活用したり、親族間で介護の負担を分散させたりすれば、介護にかかる費用を削減するのができるでしょう。また、介護休業制度などを利用して、一時的に仕事を休み、収入を確保しながら介護と仕事の両立を図るのも可能です。

再就職が難しくキャリアに影響する

一度介護離職をしてしまうと、再就職が非常に難しくなるというのが現実です。特に、介護のために長期間仕事から離れてしまった場合、その間にスキルがアップデートされず、職場環境の変化にも対応できなくなってしまいます。そのため、離職前と同じような条件での復職は容易ではありません。

 

正社員としての再就職のハードルは非常に高く、多くの場合、パートタイムやアルバイトなどの非正規雇用を余儀なくされます。キャリアの中断は、将来的な収入の減少につながるだけでなく、これまで築き上げてきたキャリアを棒に振ってしまうことにもなりかねません。特に、専門性の高い職種に就いていた場合、介護離職によってキャリアの断絶は、大きな痛手となるでしょう。

 

介護離職を防ぐためには、介護休業制度などを活用して、可能な限り仕事を継続することが重要です。また、介護と仕事の両立を支援する社内制度の充実や、柔軟な働き方の導入なども、キャリアの中断を防ぐ上で効果的でしょう。離職をせずに済むよう、社内の理解を得ながら、両立のための方策を模索していきましょう。

心身の負担が増加する

介護離職によって、介護に専念することができるようになる反面、心身の負担が増えるのは避けられません。特に、要介護度の高い家族の介護は肉体的にも精神的にも非常にハードなものです。食事や排泄、入浴など、日常のあらゆる場面で介助が必要となるため、介護者の身体的な疲労は蓄積していきます。腰痛や関節痛など、介護による身体的な問題を抱えるリスクは非常に高いのです。

 

また、孤独な介護生活の中で、ストレスが蓄積するのも大きな問題となっています。介護者の中には、うつ病などの心の病を発症してしまう人も少なくありません。介護サービスを利用したくても、経済的な理由から十分なサポートを受けられず、介護者の心身の負担が限界を超えてしまうケースもあります。

 

介護離職を防ぐためには、介護者の心身の健康を守るための支援体制の構築が不可欠です。例えば、定期的に介護者の健康チェックを行ったり、カウンセリングの機会を設けたりするなど、介護者のメンタルヘルスケアに注力が求められます。また、デイサービスやショートステイなどの介護保険サービスなどを活用して、介護者が休息を取れる環境を整備することも重要でしょう。介護者の心身の負担を軽減することで、介護と仕事の両立をより円滑に進められるはずです。

3親・家族の介護が理由で退職する前に利用したい制度

親や家族の介護のために仕事を辞めるという選択肢もありますが、そうしなくても介護と仕事を両立できる制度が整備されています。介護休業や介護休暇、時短勤務など、さまざまな制度を上手に活用することで、介護離職を回避し、仕事を続けながら大切な家族の介護への取り組みができるのです。

介護休暇

介護休暇は、要介護状態にある家族の介護その他の世話を行う労働者が、短期間の休暇を取得できる制度です。対象となる家族1人につき、1年に5日間の休暇が与えられ、2人以上の家族を介護する場合は10日間まで取得可能。休暇は1日単位だけでなく、半日単位や時間単位でも取得できるため、通院の付き添いや介護サービスの手配など、比較的短時間で済む用事にも対応しやすいのが特徴です。

 

介護休暇の対象となるのは、配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。ただし、日雇い労働者は対象外となります。また、入社6か月未満の労働者や週の所定労働日数が2日以下の労働者については、労使協定を締結すれば対象外となります。

 

介護休暇の申請方法は、企業によって異なります。多くの場合、事前に申請書を提出する必要がありますが、緊急の場合は事後の提出も認められるケースがあります。賃金の支払いについては、会社の就業規則に従うのになりますが、無給の場合が多いようです。介護休暇の取得を理由に解雇や不利益な取り扱いを受けるのはありません。

介護休業

介護休業は、要介護状態にある家族の介護を行うために、労働者が連続した期間の休業を取得できる制度。対象家族1人につき、通算93日まで、3回を上限として分割して取得が可能です。介護休業を取得する際は、事前に申し出る必要がありますが、突然介護が必要になった場合でも、2週間前までに申し出れば取得できます。

 

介護休業の対象となる労働者は、原則として、同一の事業主に引き続き1年以上雇用されている者です。有期雇用労働者でも、一定の要件を満たせば対象となります。ただし、労使協定を締結している場合、介護休業開始予定日から93日経過日から6か月を経過する日までに、雇用関係の終了が明らかな労働者は除外されます。

 

介護休業の申請は、休業開始予定日の2週間前までに、書面等で行います。休業中の賃金については、会社の就業規則に従いますが、休業開始時賃金日額の67%の介護休業給付金が支給される場合があります。ただし、雇用保険の被保険者期間など、一定の要件を満たす必要があります。介護休業の取得を理由とする解雇その他不利益な取り扱いは禁止されています。

時短勤務

時短勤務制度は、要介護状態にある家族の介護を行う労働者が、所定労働時間の短縮措置を利用できる制度です。介護休業とは異なり、所定労働時間を短くすることで、仕事と介護の両立を可能にするもの。育児・介護休業法では、介護のための所定労働時間の短縮措置として、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、介護費用の助成措置のいずれかの措置を講じるように求めています。

 

時短勤務制度の対象となる労働者は、要介護状態にある家族の介護を行う労働者で、日雇い労働者を除く全ての従業員です。労使協定を締結している場合、入社1年未満の労働者や週の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外とすることができます。

 

利用できる期間や方法は、企業によって異なります。対象家族1人につき、利用開始日から3年以上の期間について、2回以上の利用が可能とされています。時短勤務中の賃金については、就業規則に従いますが、通常、労働時間に応じた減額となるケースが多いようです。

所定外労働の制限

所定外労働の制限は、要介護状態にある家族の介護を行う労働者が申し出た場合、事業主が当該労働者の所定外労働を免除する制度。対象となる労働者は、日雇い労働者を除く全ての従業員ですが、労使協定を締結している場合、入社1年未満の労働者や週の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外となります。

 

制度の利用にあたっては、介護の必要性など一定の要件を満たす必要があります。また、1回の利用につき、1か月以上1年以内の期間について、何回でも利用可能。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、事業主は労働者からの請求を拒むことができるとされています。

 

所定外労働の制限の開始予定日の1か月前までに、書面等で申し出る必要があります。申出書には、対象家族の氏名や続柄、介護の必要性、制限期間などを記載します。

時間外労働の制限

時間外労働の制限は、要介護状態にある家族の介護を行う労働者が請求した場合、事業主が当該労働者の時間外労働を月24時間、年150時間以内に制限する制度。育児・介護休業法で定められた制度で、1回につき1か月以上1年以内の期間について、何回でも利用可能です。

 

対象となる労働者は、日雇い労働者を除く全ての従業員です。ただし、入社1年未満の労働者および1週間の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外となります。時間外労働の制限の開始予定日の1か月前までに、書面等で申し出る必要があります。申出書には、対象家族の氏名や続柄、介護の必要性、制限期間などを記載します。

 

時間外労働の制限期間中は、事業主は原則として対象労働者に時間外労働を命じることはできません。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、事業主は労働者からの請求を拒むことができるとされています。

深夜業の制限

深夜業の制限は、要介護状態にある家族の介護を行う労働者が請求した場合、事業主が当該労働者の深夜業(午後10時から午前5時まで)を制限する制度。1回につき1か月以上6か月以内の期間について、何回でも利用可能です。

 

対象となる労働者は、日雇い労働者を除く全ての従業員ですが、以下の労働者は対象外となります。

  • 入社1年未満の労働者
  • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  • 所定労働時間の全部が深夜にある労働者
  • 介護ができる16 歳以上の同居家族がいる労働者

「介護ができる16歳以上の同居家族」の条件は以下のとおりです。

  • 深夜に就労していないこと(深夜の就労日数が1か月につき3日以下の者を含む)
  • 負傷、疾病または心身の障害により介護が困難でないこと
  • 産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後8週間以内の者でないこと

深夜業の制限の開始予定日の1か月前までに、書面等で申し出る必要があります。申出書には、対象家族の氏名や続柄、介護の必要性、制限期間などを記載します。

 

深夜業の制限期間中は、事業主は原則として対象労働者に深夜業を命じることはできません。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、事業主は労働者からの請求を拒むことができるとされています。

4親・家族の介護が理由で退職する前にできること

介護離職を防ぐためには、制度の利用だけでなく、自ら積極的に情報を収集し、周囲に相談するのが大切です。介護サービスの利用や各種相談窓口の活用、職場への相談など、介護離職を回避するために取り組めるのは少なくありません。

各種サービスの利用を検討する

介護保険制度では、要支援や要介護認定を受けた人が、自宅での介護サービスを利用したり、介護保険施設へ入所できたりします。自宅での介護サービスは、訪問介護や通所介護、短期入所生活介護などです。要介護度に応じて利用できるサービスが異なります。

 

また、介護保険の対象とならないサービスもあります。いわゆる自費サービスと呼ばれるもので、家事代行サービスや配食サービス、移送サービスなどです。これらのサービスは全額自己負担となりますが、介護保険サービスでカバーできない部分を補うことができます。

 

介護サービスを上手に活用すれば、介護にかかる負担を軽減し、仕事との両立を図ることができるでしょう。ただし、サービスの利用にはそれなりの費用がかかるため、家計への影響も考慮する必要があります。介護保険サービスの利用限度額や自費サービスの料金を確認し、適切なサービスの選択が求められます。

 

イチロウは、そのような状況下で必要となる介護サービスを、幅広く提供しています。掃除や洗濯、買い物代行といった日常の家事支援から、通院の付き添いや外出の同行まで、介護する側の負担を軽減するためのサービスを24時間365日提供しているのが特徴です。プロの介護士が丁寧にサポートするので、安心して利用できます。

各種相談窓口に相談する

介護の問題を1人で抱え込まずに、各種の相談窓口を利用するのも効果的です。例えば、地域包括支援センターは、介護に関する総合的な相談窓口として、介護サービスの利用方法や介護に関する悩み、認知症への対応など、幅広い相談に応じてくれます。

 

また、介護者のための家族会や介護者サロンなども各地で開催されています。同じ立場の人と交流し、情報交換するので、介護の悩みを共有し、ストレスを軽減できるでしょう。行政の担当窓口に相談すると、利用できる制度やサービスを教えてもらえるケースもあります。

 

専門家のアドバイスによって、介護への不安を和らげ、仕事との両立に向けた道筋をつけていくのができます。1人で悩まずに、周囲の力を借りながら、前向きに介護と向き合っていくのが大切と言えるでしょう。

介護について職場に相談する

仕事と介護の両立のためには、職場の理解と協力が欠かせません。しかし、介護の事情を職場に伝えるのをためらう人も少なくないようです。介護は個人的な問題と捉えられがちですが、実は多くの人が直面する社会的な課題でもあります。

 

まずは、上司や人事担当者に介護の状況を正直に伝え、両立に向けた支援を求めるのが大切です。育児・介護休業法で定められた制度の利用を検討してもらったり、仕事の進め方を工夫したりと、話し合いを重ね、柔軟な働き方の模索をしましょう。

 

前述した介護休業や介護休暇、時短勤務などの制度を利用することで、一時的に仕事を休んだり、労働時間を調整したりすることも可能です。介護離職を防ぐためには、制度の利用をためらわずに、積極的な活用が求められます。

 

介護と仕事の両立は、労働者個人の問題ではなく、企業や社会全体で取り組むべき課題です。職場でオープンに介護の話ができる雰囲気を作り、互いに支え合える環境を整備していくことで、介護離職の防止につながるはずです。

5まとめ

この記事では、介護離職の実態とリスクについて解説するとともに、介護と仕事の両立を支援する制度や相談窓口の活用法を紹介しました。年間約11万人が直面する介護離職は、収入の減少やキャリアへの影響、心身の負担増加など、さまざまなな問題を引き起こします。

 

介護休業や介護休暇、短時間勤務など、仕事と介護の両立を支援する制度を利用すれば、介護離職を回避できる可能性があります。また、介護保険サービスの活用や各種相談窓口への相談、職場との話し合いなども重要です。介護は誰にでも起こり得る身近な問題であるという認識を持つことから始めましょう。

監修者情報

保健師歴15年介護職歴5年のフリーランスWebライター。ケアマネージャー経験あり。現在は、遠距離介護を続けつつ、当事者および支援者の立場から、介護や福祉に関する記事を執筆中。

古賀優美子(保健師、介護支援専門員)
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