介護にまつわるお役立ちコラム

介護が必要な人の食事は何が食べやすい?介護食の選び方や作り方のポイントを解説

2024年07月02日

介護が必要な人の食事では、適切な介護食の選択や作り方の工夫がとても重要です。この記事では、介護食の種類と選び方のポイント、作り方の注意点などを解説します。介護食を提供する立場の方はもちろん、介護が必要な方やそのご家族の方にも役立つ情報が満載。介護食について理解を深め、安全でおいしい食事を楽しめるようにしていきましょう。

1介護食とは

介護食とは、加齢や病気などにより食事を摂取する機能が低下した人のために、食べ物の形状やかたさを調整した特別な食事を指します。噛む力(咀嚼機能)や飲み込む力(嚥下機能)が低下すると、普通の食事が満足に食べられず、十分な栄養がとれなくなるリスクが高まります。からだの状態や生活スタイルに合わせて、介護食を活用できれば、必要な栄養素を安全に摂取できるようになります。

 

介護食の主な対象者は、高齢者や障害のある人など、何らかの理由で食事を自力で摂るのが難しくなった人たちです。加齢に伴う身体的な変化のほか、脳血管疾患や神経難病、認知症などが原因で食事能力が低下することがあります。

 

また、介護食には栄養補給の役割だけではなく、QOL(生活の質)の維持・向上へ対しても大きな効果が期待されます。おいしく食べられる工夫をすることで、食事の時間を楽しみにしてもらえます。心身の健康を保つためにも、介護食は欠かせないものなのです。

2介護食の種類・かたさの目安

介護食は、咀嚼力や嚥下力が低下した方でも安全においしく食事を楽しめるよう、食材の形状やかたさに工夫を凝らしています。そのため介護食には、利用者の状態に合わせて豊富な種類があり、それぞれ特徴が異なります。

 

市販のレトルト介護食品を選ぶ際は、商品パッケージに表示されているマークをチェックするとよいでしょう。マークは、その商品がどのような区分の介護食に該当するのか、一目で判別できる指標となっています。介護食の種類を記す代表的なマークは、「ユニバーサルデザインフード」と「スマイルケア食」の2種類です。

 

マークが付されている商品は、咀嚼力や嚥下力が低下した方の食事をサポートするための、専門的な配慮に基づいて設計されています。食べ物の形状やかたさが細かく区分されているため、利用者一人ひとりに最適な介護食が選択できるでしょう。

 

以下では「ユニバーサルデザインフード」と「スマイルケア食」について、それぞれの特徴と区分・分類を解説します。介護食選びの参考にしてみてください。

ユニバーサルデザインフード

介護食の形状や物性の目安を示す「ユニバーサルデザインフード」は、日本介護食品協議会が定めた自主規格です。この規格の対象となる食品には「UDF」という愛称のロゴマークが表示されます。

 

ユニバーサルデザインフードの特長は、咀嚼力や嚥下力の程度に応じて、食品のかたさや飲み込みやすさを4段階にランク分けしている点です。

 

以下の区分表は、日本介護食品協議会が公表しているユニバーサルデザインフードの分類です。食品のかたさを「噛む力」と「飲み込む力」の2軸で評価し、それぞれの区分に該当する食材の調理例も合わせて示しています。

引用元:日本介護食品協議会

 

区分1「容易にかめる」は、硬いものや大きいものが食べづらいものの、通常の食事に近い形態の食品が該当します。区分2「歯ぐきでつぶせる」は、歯茎の力でも潰せる程度にまで軟化させた食品、区分3「舌でつぶせる」は、歯がなくても舌の力だけで簡単につぶせる食品を指します。もっともかたさが低い区分4「かまなくてよい」は、そのまま飲み込める液状~ゼリー状の食品が該当します。

 

パッケージに表示された区分表を目安に、利用者の噛む力や飲み込む力に見合ったものを選ぶことで、安全性の高い介護食の提供が可能となります。食品を実際に手に取って確かめる際にも、この区分表が参考になるでしょう。

スマイルケア食

「スマイルケア食」は、農林水産省が策定した新しい介護食品の愛称であり、健康維持のための栄養補給が必要な方から、咀嚼・嚥下が困難な方まで、幅広いニーズに対応できるよう設計された規格です。

スマイルケア食は、対象者の状態に合わせて「青・黄・赤」の3色のマークで分類されているのが特徴です。

引用元:農林水産省

 

青マークの食品は、栄養面のサポートを必要とする方を対象としたもので、医師や管理栄養士などの指導に基づいて使用します。黄マークは、噛む力が弱い方向けの区分で、かたさやばらけやすさなどに配慮して、歯茎や舌でも押しつぶせる程度にまで軟化させてあります。最も課題の大きい「飲み込む力」が弱い方向けが赤マークで、均質でなめらかなゼリー状~ペースト状の食品などが該当します。

 

色分けされたマークを頼りに、利用者の状況に適したものを選択できる点が、スマイルケア食の分かりやすさにつながっています。専門職の助言を参考にしながら、最も安全で食べやすい介護食の提供を心がけるとよいでしょう。

 

以上のように、介護食の選び方には一定の基準が設けられており、パッケージの表示マークが目安となります。噛む力や飲み込む力の個人差に柔軟に対応しつつ、いつまでもおいしく食事を楽しんでもらうための知恵が、マークには凝縮されています。

3介護食を作るときのポイント

介護食の提供において、市販のレトルト食品の活用は簡便で効率的な手段だと言えます。だが、高齢者の食欲を保ち、日々の食事を楽しんでもらうには、可能な限り手作り料理を取り入れる配慮も大切です。

 

先述のように、介護食では利用者の咀嚼能力や嚥下機能に応じて、食材の硬さや形状を工夫する必要があります。食べる力が徐々に低下していく中でも、その時々の状態に適した食事の提供を心がけるべきでしょう。

 

以下では、家庭でも実践しやすい介護食を作る際のポイントを紹介します。調理のコツを押さえれば、高齢者に寄り添った、美味しくて安全な料理を作ることが可能になるはずです。介護食作りに不安を感じている方は、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

噛みやすい・飲み込みやすいように調理する

介護食には、利用者の咀嚼力に応じて、刻み食、やわらか食、ミキサー食、ゼリー食など、さまざまな形状のものがあります。ここではそれぞれの特徴と、具体的な作り方をご紹介します。

 

刻み食は食材を細かく刻むことで、スプーンですくいやすくし、歯での咀嚼を助ける料理です。包丁で5mm~1cm角程度に刻むと食べやすいでしょう。やわらか食は、煮る・蒸す・茹でるなどの調理で素材を軟化させ、歯茎でも潰せる程度のかたさに仕上げたものを指します。圧力鍋を活用すれば、短時間でやわらかくなります。

 

ミキサー食は、ミキサーを使って料理をペースト状にし、なめらかなポタージュ状に仕上げた介護食の一種です。とろみの調整にはとろみ剤が便利ですが、とろみをつけすぎると飲み込みにくくなるので注意が必要です。ゼリー食は、食材をゼラチンや寒天などでゼリー状に固め、少ない咀嚼力でも飲み込みやすくした料理です。

 

形状に合わせた調理を行うには、包丁、まな板、ボウル、ゴムベラ、裏ごし器、ミキサー、フードプロセッサーなど、さまざまな調理器具が必要となります。介護食作りを始める際は、自宅にあるもので代用できるものは何かを確認し、不足しているものは揃えておくとよいでしょう。

 

以下の表は、それぞれの介護食の形態における、噛む力や飲み込む力の目安、基本的な調理方法、おすすめの調理器具をまとめたものです。利用者の状態に合わせて参考にしてみてください。

刻み食
やわらか食
ミキサー食
ゼリー食
形状
食材を細かく刻み食べやすい
素材を軟らかく調理した状態
ペースト状
ゼリー状
噛む力の目安
固いものや大きいものが食べづらい
歯茎でつぶせる程度
ほとんど噛む力は必要ないペースト状
ほとんど噛む力は必要ない
飲み込む力の目安
普通に飲み込める
多少の歯ごたえがあっても飲み込める
トロミがついていれば飲み込める
なめらかなゼリーなら飲み込みやすい
調理方法
食材を細かく刻む
煮る・蒸す・茹でるなどでやわらかくする
ミキサーでペースト状にする
ゼラチンや寒天でゼリー状に固める
おすすめの調理器具
フードプロセッサー
圧力鍋、切れ味の良い包丁
ミキサー、裏ごし器
ゼリー型、泡だて器
やわらかい食材を使用する

介護食に適した食材選びのポイントは、素材のやわらかさです。食材そのものが軟らかいほど、調理の手間を減らすことができ、高齢者にもなじみやすい料理に仕上げられるでしょう。

 

おすすめの食材としては、脂ののった魚類(鮭、さば、いわしなど)、牛肉のうち脂身の多い部位(リブロース、カルビなど)、豆腐、卵、レンコン、カボチャなどが挙げられます。ミキサーにかけてペースト状にしたり、裏ごしをしたりと、調理の自由度が高いのも魅力です。また、食物繊維の摂取を考慮するなら、繊維質のやわらかい野菜を使うのもよいでしょう。皮をむいて下茹ですれば、ほうれん草、小松菜、大根、人参なども活用できます。

 

一方で、介護食への利用が難しい素材もあります。コンニャクや干し椎茸など、どんなに煮込んでもかたさが残るものは避けたほうが無難です。また、パンやクラッカーなどの乾燥した食材、牛肉のヒレ肉やささみなどの脂肪が少ない肉類も、食べにくさにつながるためおすすめできません。利用者の好みを考慮しつつ、やわらかく仕上がる食材選びを心がけましょう。

塩分は少なめにする

介護食において、塩分の抑制が最も重要です。その背景には、高齢者における高血圧の高い罹患率があります。日本高血圧学会の調査結果によれば、65歳以上の日本人の約6割が高血圧に該当するというデータが存在します。高血圧は動脈硬化を招き、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な合併症のリスクを高めます。日常の食事から塩分摂取量を減らす工夫が不可欠なのです。

 

WHO(世界保健機関)は成人の1日の塩分摂取量の目標を5g未満と定めており、日本高血圧学会もこれに準じて6g未満を推奨しています。しかしながら、日本人の平均的な塩分摂取量は、男性で11.0g、女性で9.2gと目標値を大幅に上回っているのが実情です。醤油や味噌、塩などの調味料の使用量削減だけでなく、加工食品に含まれる塩分にも注意を払う必要があるでしょう。

 

塩分を抑えつつ、満足感のある味付けを実現するには、いくつかのテクニックがあります。まず、酒、みりん、すだち、ゆず、レモンなどの柑橘類を効果的に使い、コクと風味を加えるのが有効です。また、香味野菜の活用や香辛料の利用も良策となります。だしを効かせれば塩分を抑制できるほか、汁物や煮物に具材を多めに入れるのもお勧めです。素材本来の味わいを引き出す調理法を意識するのが、美味しい減塩料理への近道と言えるでしょう。

 

参照元:日本高血圧学会

栄養のバランスを考える

介護食では、栄養バランスのとれた献立作りに注力すべきです。「バランスの良い食事」とは、多様な食品を組み合わせ、体に必要な栄養素を過不足なく摂取できる食事を意味します。

 

具体的には、炭水化物を多く含む主食(ご飯、パン、麺類)、タンパク質が豊富な主菜(肉、魚、卵、大豆製品)、ビタミン・ミネラルの供給源となる副菜(野菜、海藻、きのこ、いも類)をそろえた献立が理想的でしょう。高齢期には特に、筋肉量の維持にはたんぱく質、骨を丈夫に保つにはカルシウム、免疫力アップにはビタミンやミネラルが重要になります。ただし、どの栄養素も偏りすぎないよう、メリハリのある配分を目指す姿勢が肝要です。

 

高齢者に不足しやすい栄養素としては、カルシウムの他、鉄分、亜鉛、ビタミンD、ビタミンB群などが挙げられます。牛乳・乳製品、魚類、レバー、卵、まぐろ、ひじきなど、これらの栄養価の高い食材を意識的に取り入れると良いでしょう。旬の食材は栄養価も高く、新鮮で美味しいため推奨されます。旬に合わせて食材を変えれば、飽きのこない献立につながるはずです。

食欲がわくよう見た目に美味しそうに仕上げる

せっかく作った料理も、見た目が悪ければ食欲は湧きません。介護食は形態や食感が限定される分、盛り付けの美しさがより重要になってきます。いつもの食事が急に形の変わった介護食になると、高齢者は戸惑いを感じるかもしれません。食べ慣れたものが食卓に並んでいると安心でき、自然と箸が進むものです。料理ごとに色を残すなど、目で見て楽しめる盛り付けの工夫もおすすめです。

 

見た目の美しさを意識するだけでなく、器選びにもこだわってみましょう。重さや持ちやすさ、すくいやすさなどを吟味し、食器自体も食事を楽しむ要素の一つとしてとらえることが大切です。また、ある程度食べ飽きてきたら、高齢者の好みを取り入れた献立にするのも効果的。リクエストに応えた料理が食卓に並べば、それだけで喜んでもらえ、満足度も上がります。

マンネリ化を防ぐ献立のローテーションにより、いつまでも食への意欲を保ってもらえるはずです。

 

食事の印象は見た目が大半を占めると言っても過言ではありません。調理の際は、彩り鮮やかで美味しそうに仕上がるよう、一工夫を心がけましょう。

食事を楽しめる環境を作る

人は一人で食事をするより、家族や友人と一緒のほうが美味しく感じるものです。食事の際の何気ない会話が、実は心の栄養となり、生きる意欲にもつながっているでしょう。高齢者が安心して食事を楽しめる環境づくりは、介護食を提供する上で欠かせない要素の一つといえます。

 

まずは、食卓が華やかで楽しい雰囲気になるよう、テーブルクロスを変えたり、お花を飾ったりするのがよいでしょう。季節感のある食器を取り入れるのもお勧めです。また、適度なBGMを流し、リラックスできる空間を演出するのも効果的な方法です。

 

空間づくりと並行して、高齢者とのコミュニケーションを大切にする姿勢が重要です。献立について尋ねたり、味の感想を言い合ったりすれば、会話が弾み、一層の食欲増進が期待できるでしょう。

 

介助が必要な方の場合は、さりげない声かけやスキンシップを心がけ、穏やかな表情で接するのが何より大切です。介護食作りの際は、調理方法だけでなく、食事の場の雰囲気にも目を向けるべきでしょう。「どうしたらあの人に喜んでもらえるか」を常に考えながら、ちょっとした工夫を積み重ねるのが、充実した食生活を送るための鍵となるはずです。

4まとめ

介護食は、咀嚼機能や嚥下機能が低下した方でも安全においしく栄養を摂取できるよう、食材の形状やかたさ、調理方法に配慮した特別な食事です。介護の必要な高齢者の心身の健康維持に不可欠な存在といえるでしょう。

 

介護食には、刻み食、やわらか食、ミキサー食、ゼリー食など、段階的に形態が変化する主に4つの種類があります。日本介護食品協議会のユニバーサルデザインフードや農林水産省のスマイルケア食など、かたさや飲み込みやすさを目安とした指標も存在し、食事形態の選択に役立ちます。

 

調理の際は、素材のやわらかさを生かしながら、バランスの良い献立作りを心がけるのが重要です。塩分控えめの味付けや彩りの工夫など、高齢者の嗜好に合わせた配慮も大切になります。食事の場の雰囲気づくりにも目を向け、楽しく食べられる環境を整えれば、いっそう食欲増進が期待できるでしょう。

 

とはいえ、高齢者の状態は日々変化するもの。ご家族の介護力にも限界があります。介護食作りに不安や負担を感じたら、在宅介護のプロに頼るという選択肢もお勧めです。イチロウでは、資格を持った一流の介護士が、ご自宅に訪問して食事作りのお手伝いや代行を行っています。利用者一人ひとりの症状やニーズに合わせ、24時間365日、食事から排泄、入浴、服薬管理、通院の付き添いまで、幅広い生活支援が可能です。

 

食事については、管理栄養士の助言に基づき、それぞれの咀嚼・嚥下状態に適した形態の料理をご提供。旬の食材を生かし、目にも美しい盛り付けで、季節を感じられるメニューを日々ご用意しています。

 

また、外出時の食事介助にも対応しており、高齢者の社会参加をサポートしています。食事の時間が単なる栄養補給の場ではなく、日々の楽しみとなるよう、会話を交えながら温かく寄り添うのもイチロウの特徴です。

 

自立支援の観点から、できる作業はご自身でしていただくのを基本としつつ、専門的なケアが必要な部分はしっかりとサポート。高齢者もご家族も、安心して毎日の食事が楽しめる環境づくりを目指し、きめ細やかなサービス提供に努めています。

 

介護保険の枠組みにはない柔軟なサービス展開で、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームなどの介護施設のようなオーダーメイドの食事提供が、ご自宅で受けられるのがイチロウの強みです。介護食づくりにお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。

監修者情報

2012年に作業療法士養成校を卒業後、回復期リハビリテーション病院・第二次救急総合病院へ勤務。他法人の介護老人保健施設、訪問看護ステーション、外来クリニックへの出向をとおし幅広いフィールドで経験を積む。

多様な診療科(脳神経外科、整形外科、循環器内科、呼吸器科)で多くの患者様を担当。お一人おひとりの「こうなりたい」を大切に、個々のニーズに応じた作業療法を実施。地域リハビリテーション事業や職場内の業務改善へも携わる。

2023年より通所介護事業所へ転職。多様な経験と専門知識を活かし、機能訓練指導員として業務を行っている。

齋藤祥平(作業療法士)
コラム一覧に戻る
icon_arrow_gotop