介護にまつわるお役立ちコラム

親の介護費用を抑えるための控除とは?種類や控除以外に費用負担を抑える方法も解説

2024年07月05日

親の介護費用は高額になるケースが多く、経済的な負担を感じている方も少なくありません。そんな中、介護費用の負担を抑えるための控除制度があることをご存知でしょうか。この記事では、親の介護費用を抑えるための控除の種類や具体的な手続き方法、さらには控除以外で介護費用の負担を抑える方法についても解説します。介護費用の負担に悩んでいる方は、この記事を参考に適切な制度を活用し、少しでも負担の軽減を行ってください。

1そもそも親の介護費用はいくらかかる?

親の介護費用は、介護サービスの種類や利用頻度、介護期間などによって大きく異なりますが、一般的に高額になる傾向があります。介護費用の実態を把握し、適切な備えをしておくことが、安心して介護に取り組むためには欠かせません。

 

生命保険文化センターが2021年に実施した「生命保険に関する全国実態調査」によると、介護にかかった一時費用の平均は74万円、月々の費用の平均は8.3万円という結果です。さらに、介護の平均期間は61.1ヶ月(約5年)であることから、トータルの介護費用は581万円程度と推計されています。

 

この金額は平均値であり、実際には要介護者の状態や介護の方法、利用するサービスの内容などによって大きな差が生じます。例えば、有料老人ホームなどの施設に入所した場合、月額20万円以上の費用がかかるケースも少なくありません。一方、在宅介護の場合は、利用するサービスの種類や頻度によって費用が変動します。

 

また、介護にかかる費用は介護保険制度の対象となるサービスの自己負担分だけでなく、介護保険の対象外となる費用も含まれます。おむつ代や介護用品の購入費、住宅のバリアフリー化工事費用など、様々な出費が必要です。

 

介護費用は家計に大きな影響を与えるだけに、事前の準備が大切です。介護保険料は40歳以上の方が納付する必要がありますが、将来の介護に備えて計画的に資金の積み立ててをおすすめします。また、介護費用の負担を軽減するための控除制度や補助金についても、知識を深めておくことが重要です。

2親の介護費用を抑えるための控除とは

親の介護には多額の費用がかかりますが、税金の控除を適切に活用することで、負担を軽減が可能です。所得税や住民税の申告の際に、介護に関連する支出を控除として申告できる制度が複数用意されています。ここでは、代表的な控除の種類と内容、手続き方法について詳しく解説していきます。

医療費控除

医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定金額を超えた場合に、確定申告によって所得から控除される制度です。医療費控除の対象となる医療費の中には、介護に関する費用も含まれています。

 

介護保険制度における医療系の介護サービス費と医療系介護サービスと併用した介護サービス費、介護施設の居住費や食費などが、医療費控除の対象となります。ただし、制度の対象となるサービスの種類や費用の計算方法は複雑なため、確認が必要です。

 

医療費控除を受けるには、確定申告の際に「医療費控除の明細書」と控除対象となる介護サービスの領収書、医療費の領収書(※)を添付する必要があります。控除額は、1年間の医療費の合計額から保険金などで補填される金額と10万円を差し引いた金額(上限200万円)となります。

 

※領収書は、確定申告期限から5年間保存する必要があります。

社会保険料控除

社会保険料控除は、納付した社会保険料について所得から控除される制度です。介護保険料は社会保険料控除の対象となるため、確定申告または年末調整の際に申告することで、負担を軽減できます。

 

介護保険料は、40歳以上の方が納付義務を負います。保険料は、65歳未満の方は医療保険者が、65歳以上の方は年金から天引きされるのが一般的です。年金からの天引き額は、「公的年金等の源泉徴収票」で確認可能です。

 

確定申告の際は、納付した介護保険料の全額を社会保険料控除の対象として申告します。年末調整の場合は、勤務先に「保険料控除申告書」を提出します。

扶養控除

扶養控除は、一定の条件を満たす親族を扶養している場合に、所得から一定額を控除できる制度。扶養親族となる条件は、年間の合計所得金額が48万円以下であること、納税者本人またはその配偶者と生計を一にしていることなどです。

 

扶養親族が70歳以上の場合は、「老人扶養親族」として一般の扶養親族よりも高い控除を受けられます。控除額は、同居の老人扶養親族が58万円、同居でない老人扶養親族が48万円です。

 

扶養控除を受けるには、確定申告または年末調整の際に申告が必要になります。

障害者控除

障害者控除は、納税者本人またはその扶養家族が障害者手帳などの交付を受けている場合に、所得から一定額を控除できる制度です。65歳以上の要介護認定者で一定の要件を満たす方も、障害者控除の対象となります。

 

要介護認定を受けている方が、寝たきりや認知症などにより障害者に準ずる状態にあると認められた場合、「障害者控除対象者認定書」の交付を受けることで、障害者控除が適用可能です。

 

障害者控除の金額は、障害者の区分に応じて異なります。特別障害者は40万円、特別障害者以外の障害者は27万円の控除が受けられます。同居の特別障害者の場合は75万円の控除となります。

 

控除を受けるには確定申告が必要です。障害者控除対象者認定書など、障害者であることを証明する書類の添付が求められます。

高齢者など年齢区分による控除

所得税法では、高齢者に対する配慮から、65歳以上の公的年金等の受給者について、所得控除の特例が設けられています。

 

公的年金等の収入金額が158万円以下の場合は、公的年金等控除額と基礎控除額の合計額が引かれるため、所得税は非課税です。収入金額が158万円を超える場合も、控除額が上乗せされるため、税負担が軽減されます。

 

この特例は、確定申告や年末調整の際に自動的に適用されます。

子どもや特別障害者などを有する者の控除

所得税額の計算上、特別な控除の対象となる人がいる場合、所得金額調整控除が適用されます。

 

例えば、23歳未満の扶養親族や特別障害者である扶養親族または配偶者を有する場合、所得金額調整控除の適用を受けられます。控除額は、給与等の収入金額が850万円を超える部分の10%相当額(上限150万円)です。

 

所得金額調整控除は、年末調整や確定申告の際に申告することで適用を受けられます。

還付申告で過去の税金控除を受けられる場合も

確定申告の期限内に申告できなかった場合でも、税法上、期限後5年以内であれば還付申告ができると定められています。

 

例えば、医療費控除や扶養控除の適用を受けられるにもかかわらず、うっかり期限までに確定申告をし忘れてしまったというケースがあります。そのような場合、5年前までさかのぼって還付申告を行うことが可能です。

 

還付申告の手続きは、通常の確定申告と同様です。確定申告書と一緒に、「更正の請求書」を税務署に提出しましょう。必要な書類を添付し、控除内容を記載した上で申告を行えば、払いすぎた税金が還付されます。

 

なお、還付申告ができる期間は5年間と定められていますが、早めの手続きをおすすめします。還付金には利子が付きませんし、親の介護で資金が必要になるタイミングに合わせて受け取りが可能です。過去の控除も漏らさずチェックしましょう。

3控除以外で親の介護費用負担を抑える方法

親の介護費用の負担を軽減するためには、税制上の控除以外にも様々な方法があります。介護保険制度を上手に活用したり、自治体の助成制度を利用したりすることで、介護にかかる経済的な負担を大幅に抑えられるでしょう。ここでは、控除以外で親の介護費用負担を抑える具体的な方法を紹介します。

制度や補助金を活用する

介護保険制度には、利用者の負担を軽減するための様々な仕組みが用意されています。また、国や自治体が実施している助成制度を活用すれば、介護費用の負担をさらに抑えることが可能です。介護保険制度と助成制度を上手に組み合わせることが、親の介護費用負担を抑えるポイントとなります。

  • 負担限度額認定制度

負担限度額認定制度は、住民税非課税世帯の方が介護保険施設やショートステイを利用する際に、食費と居住費の自己負担額に上限が設けられる制度。

 

対象となるのは、世帯全員が住民税非課税であり、預貯金等の金融資産が単身で1,000万円以下、夫婦で2,000万円以下の方です。利用者負担段階に応じて、自己負担額の上限が設定されています。例えば、老齢福祉年金受給者の場合、自己負担額は1日あたり食費が300円、特養等の従来型個室の場合は380円です。

 

利用の際は、市区町村に申請し「負担限度額認定証」の交付を受ける必要があります。

  • 高額介護サービス費

高額介護サービス費は、1ヶ月の介護サービス利用料の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、超過分が払い戻される制度。

 

自己負担の上限額は、世帯の所得に応じて設定されています。一般的な世帯の場合、上限額は44,400円です。世帯全員が住民税非課税の場合は24,600円、年金収入等が年80万円以下の方は24,600円と、低所得者ほど負担が軽減される仕組みになっています。

 

該当する場合は、利用者本人またはその家族が、市区町村の窓口に申請します。

  • 高額介護合算療養費制度

高額介護合算療養費制度は、1年間の医療保険と介護保険の自己負担額の合計が著しく高額になった場合に、一定の金額を超えた分について払い戻しを受けられる制度。

 

医療保険と介護保険の自己負担を合算した限度額は、年収や年齢によって異なります。住民税非課税世帯の70歳以上の方の場合、限度額は年間31万円です。70歳未満の低所得者の場合は34万円に設定されています。

 

申請先は、加入している医療保険者(市町村や健康保険組合など)です。

  • 公的介護保険料の減免

公的介護保険料は、一定の要件を満たす低所得者について、申請により減免される場合があります。

 

生活保護受給者や、世帯全員が住民税非課税で収入が著しく少ない方などが対象です。減免割合は、自治体によって異なります。災害や失業、事業の廃止などにより収入が著しく減少した場合なども、減免が適用される可能性があります。

 

減免を受けるには、市区町村の介護保険担当窓口に申請が必要です。

  • 介護費用負担軽減につながる補助金

介護に関連する費用の負担を軽減するための補助金制度としては、以下のようなものがあります。

 

家族介護慰労金制度は、要介護4または5の認定を受けた高齢者を、過去1年間介護保険サービスを利用せずに自宅で介護した家族に対し、慰労金が支給される制度です。支給額は、自治体によって異なりますが、年額10万円程度が一般的となります。

 

高齢者住宅改修費助成事業は、要介護認定者の自宅の手すりの取り付けや段差の解消など、バリアフリー化のための工事費用の一部を助成する制度。助成額は自治体によって異なりますが、1回あたり20万円を上限に、費用の7~9割までが対象となることが多いようです。

 

このほか、高齢者の補聴器購入費用や徘徊探索機器の購入費用への助成など、自治体独自の補助制度を設けているケースもあります。市区町村の担当窓口に相談してみると良いでしょう。

世帯分離し非課税世帯にする

親が要介護状態になり、医療費や介護費の負担が大きくなると、親子で同居している世帯では経済的に厳しい状況に直面するケースが少なくありません。そのような場合、親と子で世帯を分離し、親だけの世帯を住民税非課税の世帯とすることで、介護サービスの利用者負担を軽減できる可能性があります。

 

住民税非課税世帯になると、介護サービスの利用者負担割合が1割負担(一定以上の所得がある場合は2割負担)に軽減されます。さらに、高額介護サービス費の自己負担限度額も、一般世帯よりも低く設定されるでしょう。

 

世帯分離は、収入のない親と別世帯とすることで可能になります。ただし、同居していても生計が別であれば、非課税世帯とみなされる場合もあります。世帯分離の認定基準は自治体によって異なるため、市区町村の担当窓口で事前に確認しておきましょう。

 

なお、世帯分離をすると税制上の扶養控除が適用されなくなるというデメリットがあります。世帯分離によって得られるメリットと、扶養控除が受けられなくなることによる税負担の増加を比較考量し、慎重に判断する必要があります。

4まとめ

この記事では、親の介護費用を抑えるための控除の種類と具体的な手続き方法、控除以外の介護費用負担を抑える方法について詳しく解説しました。介護費用は高額になることが多く、経済的な負担は大きいものですが、控除制度や介護保険制度、自治体の補助金をうまく活用すれば、負担を大幅に軽減が可能です。また、世帯分離によって非課税世帯となることで、介護費用の自己負担割合を下げることも可能です。

 

介護が必要な親を抱える方は、ぜひこれらの制度について理解を深め、積極的に活用していきましょう。介護費用の負担に悩まず、親の介護に専念できる環境を整えることが何より大切です。

監修者情報

ケアマネジャー20年の実績があり、100名以上の高齢者を担当。がん末期や難病、認認介護、介護拒否などの事例も多く経験。現在はWebライターとして介護分野を中心に執筆している。

長谷部宏依(介護士専専門員)
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