介護にまつわるお役立ちコラム

認知症の親を介護施設に入れるタイミングは?利用できるサービスや説得方法も解説

2024年07月05日

高齢者の介護は、家族にとって大きな負担となる場合があります。特に認知症が進行して、自宅での生活が困難になると、介護施設への入所が必要になる場合があります。しかし、いつどのタイミングで施設入所を決断すればいいのでしょうか?また、本人が頑なに入所を拒んだら、どのように説得すればよいのでしょうか?施設入所へのよくある悩みから施設の選び方や手続きの方法まで、具体的な解決策を紹介します。

1入所のタイミングは在宅生活に限界を感じたら

認知症は、徐々に症状が進行していくため、何かきっかけがないと、施設への入所に踏み切れないものです。本人の意思を尊重しつつ、介護者の心身の健康状態を考慮し、適切な入所のタイミングを見極めることが大事です。

【認知症の本人・介護者の状況】自宅で生活を続けられないと感じたとき

本人や介護者が、症状や生活状況に不安を感じ始めたら、介護施設への入所を検討するタイミングです。

 

認知症が進行すると、物忘れや理解力の低下などにより、自宅での生活に支障をきたすようになってきます。段差の多い家屋構造や、介護者の不在などが、本人の不安材料となる場合があります。また、介護者も、長期化する介護生活に疲れが蓄積し、身体的・精神的な負担が大きくなってくることがあります。

 

本人と介護者のいずれかが自宅生活を継続することに限界を感じ始めたら、介護施設入所を検討しましょう。

【認知症の本人の状況】徘徊が始まるなど認知症が進行したとき

認知症の症状が進行し、自宅での介護継続が困難と感じたら、施設への入所を検討するタイミングです。

 

認知症の初期症状は、物忘れやイライラ、怒りっぽくなるなど、加齢に伴う変化と見分けがつきにくいことがあります。そのため、周囲が些細な変化に気づかないうちに、認知症が進行しているケースも少なくありません。徘徊の始まりや、排泄や移動などの基本的な日常生活動作の介助量増大、家族だけでの対応困難がみられる場合は、介護施設への入所を検討しましょう。

【認知症の本人の状況】介護者の見守りが常に必要になったとき

常に介護者の見守りが必要な状況は、施設入所を検討するタイミングのひとつです。

 

認知症が進行すると、本人の判断力が低下し危険な行動をとってしまうリスクが高まるからです。例えば、コンロの火を消し忘れて火災になる、悪徳商法の被害に遭うなど、重大な事故や被害につながる可能性があります。こうなると、介護者が常に本人のそばで見守り、危険を未然に防ぐ必要があります。しかし、仕事や家事、育児などを抱える介護者にとって、24時間体制で本人を見守ることは現実的に困難です。

 

介護施設であれば、専門知識があるスタッフが交代で見守り、安全の確保が可能です。介護者の負担が大きくなりすぎる前に入所を検討しましょう。

【介護者の状況】心身の健康に影響が出ている

介護者が自身の限界を感じたら、決して無理をせず、周囲の支援を求める姿勢が大切です。併せて、施設入所も視野に入れる必要があります。

 

長期間にわたる介護は、介護者の心身の健康に大きな影響を与えます。十分な睡眠時間が取れず、介助が原因の腰痛などの痛みを抱え、介護者自身の体力が徐々に低下していくでしょう。また、絶え間ないストレスにさらされることで、イライラや抑うつ状態に陥るリスクも高まります。介護者の健康状態が悪化すると、本人への接し方が雑になったり、きつく当たったりと、虐待や介護放棄につながる危険性も懸念されます。

 

介護者の心身の健康は、在宅ケアを提供するための土台です。自身の限界を感じたら、施設入所も含めて周囲の支援を検討しましょう。

2認知症で入所できる施設と選び方

介護施設への入所を検討せざるを得ない状況に直面したとき、まず頭に浮かぶのは「認知症の方を受け入れてくれる施設はどこ?」「どのような基準で施設を選べばいいの?」のふたつでしょう。認知症の方が入所可能な施設にはそれぞれ特徴がありますので、把握した上で慎重に検討しましょう。

認知症で入れる施設は主に4種類

認知症の方が入所できる主な介護施設には、以下の4種類です。それぞれの特徴と費用を表にまとめました。

グループホーム有料老人ホーム特別養護老人ホームサービス付き高齢者向け住宅
特徴・認知症の方のみ
・少人数で共同生活を送る
・介護や生活支援を受けられる
・介護付きと住宅型がある
・介護付きは24時間介護が受けられる
・公的施設
・基本は要介護3以上で入所可能
・バリアフリーの賃貸住宅
・安否確認や生活相談のサービス付き
入所費用目安数万~20万円程度数十万~数千万円程度0円0円~数十万円程度(敷金)
月額費用目安10万~20万円程度10万円~50万円程度数万円~10万円程度10万円~30万円程度
施設を選ぶポイント

最適な施設を選択するためには、本人の状態や希望、家族の事情など、様々な要素を総合的に検討する必要があります。下記のようなポイントを一つ一つ慎重に確認していきます。

  • 本人が望む条件に合っているか
  • 入所にかかわる費用が問題ないか
  • 医療面でのサポート体制が整っているか
  • 終末期のケアや看取りまで対応可能か
  • 認知症ケアはどのように行っているか
  • 認知症が進行した場合の退去条件
  • 施設スタッフとの相性はどうか

まずは、本人の意思を尊重することが第一です。その上で、これまでの生活スタイルを継続できる環境かどうか、スタッフとうまくやっていけそうかなど、施設での生活の質について確認します。大事な家族を預けるのですから、医療面でのサポートや終末期ケアへの確認も欠かせません。また、認知症の症状によっては退去させられることもありますので、条件を事前に把握し備えておくことも必要です。

3認知症で施設へ入所するまでの流れ

いざ介護施設へ入所することを決めても、実際に施設に入所するまでは数ヶ月かかることが普通です。施設入所に向けた一連の流れを追いながら、各段階で大切にしたいポイントを探っていきます。

本人と家族で希望を整理しながら話し合う

まず、本人と家族で希望を整理しながら、率直に話し合うことが大切です。本人の意思を尊重し、できる限り希望に沿った環境を選ぶことを心がけましょう。一方で、家族の負担や事情も考慮する必要があります。お互いの思いをオープンに共有し、理解を深めあうことが、納得のいく施設選びにつながります。

 

また、本人の健康状態や介護度、家族の介護力、経済的な状況などを、この段階で把握します。認知症の症状や進行度合いによって、適した施設も異なってきます。また、入所にかかる費用や家計への影響も考える必要があります。こうした情報を整理したうえで、優先順位をつけながら希望条件を具体化していきます。

条件に合う施設を調べる

次に、希望条件に合致する施設を幅広く調べていきます。インターネットの検索サイトを活用したり、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談して、情報収集に努めましょう。施設のホームページやパンフレットから、概要や特色をつかめます。

 

このとき、自宅からの距離や立地条件、建物の設備や雰囲気、提供されるサービスの内容、職員体制、医療面でのサポート、認知症ケアへの理解や取り組みなど、本人や家族にとって大切なポイントを確認します。気になる点があれば、電話やメールで問い合わせてみるのもいいでしょう。複数の施設の情報を比較検討することで、より自分たちに合った施設を絞り込んでいきます。

入所したい施設の見学や体験入所をしてみる

施設を絞り込んだら、実際に足を運んで見学します。施設の雰囲気や入所者の様子、職員の対応などは、現地に行ってみないと分からないものです。可能であれば本人と一緒に見学しましょう。

 

見学の際は、以下のようなポイントをチェックします。

  • 施設内は清潔で、居心地の良い空間になっているか
  • 入所者同士のコミュニケーションは活発か
  • 職員の態度は明るく、親切で誠実そうか
  • 認知症ケアの取り組み方や実績を具体的に聞けたか
  • 気になることを遠慮なく質問し、納得のいく回答が得られたか

また、体験入所ができる施設であれば、実際に宿泊してみるのもおすすめです。日常的な生活の流れやケアの様子を肌で感じられる貴重な機会となります。こうした見学や体験を通して得た情報や感触を、本人や家族で共有しながら、入所する施設を選んでいきます。

申し込みをして必要書類を準備する

入所を希望する施設が決まったら、正式に申し込みを行います。申込書の提出とともに、診断書や介護保険証、家族の状況を証明する書類など、施設側が求める必要書類を揃えます。

 

また、施設によっては健康診断書の提出を求められることもあります。書類の準備は意外と時間がかかるもの。早めに取りかかり、不備のないよう注意深く確認することが大切です。

施設職員との面談後に契約・入所

申し込み後は、施設職員との面談が行われます。本人の心身の状態や生活状況、これまでの経緯や家族の事情など、施設側が把握しておくべき情報を伝えます。また、施設のケア方針や体制、サービス内容、入所後の生活についても詳しく説明を受けます。

 

入所可否の審査を経て、晴れて契約となります。契約の際は、重要事項説明書や契約書の内容を隅々までチェックし、疑問点は納得いくまで質問しましょう。入所日が決まったら、お部屋の準備や荷物の移動など、入所に向けた最終段階の手配を進めます。

4入所を拒否するときはどうする?

介護施設への入所は、本人が強く拒否するケースは少なくありません。しかし、在宅介護の継続が困難な状況では、本人の気持ちを尊重しつつも、施設入所に向けて一歩ずつ進めていく必要があります。

焦って無理に入所を進めるのはNG

認知症の親の介護に疲弊し、早期の施設入所を望むあまり、つい焦ってしまうことがあるかもしれません。しかし、その焦りや不安は、本人に伝わってしまうものです。強引に入所を勧めれば、かえって反発を招き、信頼関係が崩れてしまう恐れがあります。

 

本人が安心して入所に踏み切れるよう、十分な時間をかけて向き合うことが大切です。本人のペースに合わせ、じっくりと話し合いを重ねていきましょう。

嫌がる理由を尋ねる

説得を試みる前に、まずは本人が入所を嫌がる理由を丁寧に聞き取ることから始めます。なぜ施設に行きたくないのか、真摯に耳を傾けることで、説得の糸口が見えてくるはずです。

 

新しい環境への不安、これまでの生活習慣を変えることへの抵抗、施設での生活に対する漠然とした恐れなど、その理由は人それぞれです。本人の思いを汲み取ったうえで、施設での暮らしぶりや周囲のサポート体制など、具体的な情報を丁寧に伝えていくことで、未知の場所への不安を和らげることができるでしょう。

「見捨てられる」という誤解を払拭する

「介護は家族がするもの」という考え方が根強い方にとって、施設入所は「家族に見捨てられる」と感じられるかもしれません。特に認知症により物事を柔軟に捉える力が低下している場合、こうした誤解を抱きやすくなります。

 

本人の不安を取り除くためにも、愛情を持って寄り添う姿勢を示すことが何より重要です。「施設に入っても、私たちはあなたのことを心配し続けている」「より良い暮らしを送ってほしいから、施設入所を勧めている」と、言葉や行動で愛情を伝え続けることで、「見捨てられる」という思い込みを払拭していけるはずです。

それでも嫌がるのであれば第三者に介入してもらう

それでも頑なに入所を拒む場合は、第三者の力を借りるのもよいでしょう。親しい親戚や友人に説得を試みてもらったり、日頃から本人と接しているケアマネジャーなどの専門家に現状を話してもらうことで、本人も冷静に耳を傾けられるかもしれません。

 

家族とは違う立場の人から諭されることで、これまでとは違う視点から物事を捉え直すきっかけになることもあるでしょう。第三者を交えた話し合いを重ねることで、少しずつ入所への心理的ハードルを下げていけるはずです。

いきなり入所が難しければまずはショートステイから始める

それでもなお、施設入所に抵抗を感じている場合は、まずはショートステイ(短期入所)から始めてみるのも良い方法です。数日間施設で過ごしてもらうことで、雰囲気を肌で感じてもらえます。「思っていたよりも居心地が良い」「職員の方が優しく接してくれる」などと、施設に対するイメージが変わるかもしれません。ショートステイを何度か繰り返すうちに、徐々に施設での生活に慣れ、本入所への抵抗感も和らいでいくはずです。

5まとめ

認知症の親の介護に行き詰まった時、施設入所は選択肢のひとつですが、本人の抵抗感から、入所のタイミングや説得方法に悩む介護者は少なくありません。入所への抵抗感を和らげるための工夫を重ね、本人が安心して新しい生活に踏み出せるよう、家族のサポートは大切です。適切な施設を選び、本人の気持ちに寄り添いながら、入所に向けて一歩ずつ進めていくことで、本人と介護者双方にとって、より良い選択ができるようになるでしょう。

監修者情報

テラステック株式会社
2013年に株式会社が経営するデイサービス兼有料老人ホームに就職後、2年後に生活相談員兼現場統括・財務管理に従事。
2017年に一般社団法人の有料老人ホームに転職後、介護福祉士を取得。
2019年に株式会社が経営するグループホームに転職後、認知症実践者研修を修了。
2022年に訪問介護事業所の新規開設。
2023年に居宅介護・重度訪問介護の指定取得。
現在は事業所の管理者に従事。教育に重点を置き、人間性やコミュニケーションの取り方を発信。

沼原義和(介護福祉士)
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