介護にまつわるお役立ちコラム
地域包括ケアシステムの考え方とは?メリットや今後の課題を解説!
将来の実現を目指して構築が進められている「地域包括ケアシステム」。高齢者を社会全体で助け合いながらケアしていくために注目されている仕組みです。最近では多くの地域で取り組みが行われています。高齢者がさらに増える今後には必須の仕組みですが、実際的な導入にあたっては問題点もあるとも言われています。そこでこの記事では地域包括ケアシステムの考え方やよい点、これからの課題について解説していきます。
地域包括ケアシステムとは、簡単に言うと「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」を一体的にサポートしていくケア体制のことです。高齢者が重度の要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしく暮らせることを目的に仕組み作りがなされています。ここでは、そんな地域包括ケアシステムの考え方やポイント・背景について解説していきます。
地域包括ケアシステムは2025年をめどに実現することを目標としています。その背景となるのは、海外と比べても圧倒的なスピードで進行している日本の高齢化です。2020年には65歳以上の人口は過去最多の3617万人となり、今後も高齢者の人口は増加し続けると予想されています。(参照:統計からみた我が国の高齢者|総務省)
こうした状況下で2025年には“団塊の世代”が後期高齢者となる75歳以上に達し、医療・介護などの需要が高まっていきます。ところが介護職が大きく不足する現状では増え続ける高齢者に対応することはできません。そこで地域のサービス・支援体制を整え、必要な人をケアしていけるよう地域包括ケアシステムが推進されているのです。
地域包括ケアシステムは市町村や都道府県が地域の特性に応じて作り上げていく制度で、その構成要素は以下の5つです。
①住まい | 自宅・サービス付き高齢者住宅など生活を送る場所 |
②医療 | かかりつけ医・亜急性期・急性期病院、回復期リハビリ病院・看護サービスなどの医療サービス全般 |
③介護 | 在宅系サービス(訪問介護・通所介護など)・施設・居住系サービス(介護老人福祉施設・介護老人保健施設・認知症共同生活介護など) |
④予防 | ボランティアやNPO・自治体などによる介護予防 |
⑤生活支援 | 配食サービス・見守り・安否確認など |
この5要素の関係性は植木鉢にも例えられるように、まずは暮らしのベースとなる「住まい」や「生活支援」を確保したうえで「医療」「介護」「予防」を機能させていくという組み立てです。つまり土台となる植木鉢や土がしっかりしていなければ植物を植えても育たないという考えかたで、これが地域包括ケアシステムの基本的な要素となっています。
地域包括ケアシステムを推進するポイントとして「自助」「互助」「共助」「公助」が必要であると言われています。この4つの助は以下のような意味があります。
①自助 | 自分で自分を助けることです。具体的には高齢者が介護予防として自分自身で検診を受ける、住み慣れた地域で生活を続けるため他者と交流するなど自分自身をケアする行動が挙げられます。 |
②互助 | 親しい間柄や知り合い同士で助け合い問題を解決することです。例えば地域でのボランティア活動や住民同士の助け合いなどが挙げられます。 |
③共助 | 共助は社会全体での助け合いを指します。年金・介護保険・医療保険サービスなどの社会保険制度を利用することが該当します。 |
④公助 | 社会福祉制度のことで、生活困難者を救済するための行政サービスが該当します。公助では自助・互助・共助では支えきれない大きな問題を抱えている人の生活が保障されており、税金で賄われます。 |
地域包括ケアシステムでは、このなかでも互助・自助の役割が重視されます。この2つは今後より一層役割を高めていくことが求められるでしょう。
地域包括支援センターは、地域住民の生活や心身の健康を保持するための援助を行う、市町村が運営する機関です。平成24年4月時点で全国に約4300か所(支所を含めると7335か所)設置されています。地域包括支援センターの具体的な業務は「包括的支援事業」「介護予防支援事業」の2つに分かれており、以下のようなものがあります。
【包括的支援事業】
〇総合相談・支援
〇権利擁護
〇包括的・継続的ケアマネジメント など
【介護予防支援事業】
〇指定介護支援事業所として要支援者のケアマネジメントを実施
なおセンター内には保健師や社会福祉士・主任ケアマネージャーなどを基準通り配置する必要があり、その目的は、介護はもちろん医療や福祉・健康などの側面から地域に暮らす人々をサポ―トすることです。人員配置の基準は介護保険第1号被保険者3000~6000人あたり保健師や社会福祉士・主任ケアマネージャーがそれぞれ1人とされています。
来たる2025年に向けて社会全体で広がりを見せつつある地域包括ケアシステムですが、仕組みが拡充しうまく機能することでどのような利点が生まれるのでしょうか。ここでは地域包括ケアシステムが高齢者やその家族に与えるメリット3点を詳しく解説していきます。
地域包括ケアシステムの大きなメリットとして、要介護状態となっても自宅での生活が続けられることが挙げられます。特に家族だけで介護していくのは難しいと言われる認知症ですが、地域包括ケアシステム構築の一環として推進されている「地域支援ネットワーク」を利用すれば地域内に認知症サポーターが増えていくことが予想されます
認知症サポーターとは、認知症への知識を持っており認知症の当事者やその家族を支援する人です。あわせて認知症介護者の情報交換や息抜きの場となる「認知症カフェ」も増えていくことにより、地域全体で認知症を支える体制がつくられることとなります。家族だけでなく地域全体で支えていくことで、認知症を発症した高齢者の方も住み慣れた地域・自宅での生活が可能となるでしょう。
従来の仕組みでは「医療」と「介護」はそれぞれ独立した事業で、連携体制が十分ではないことから柔軟なサービス提供が難しくなっていました。特に医療ケアが必要となった場合には医療機関への入院が一般的で、自宅や住み慣れた地域を離れて過ごすことに不安感を覚える高齢者も多いのが現状です。
ところが地域包括ケアシステムが機能するようになれば、在宅医療と介護サービスが連携され一体的なサポートが可能となります。その結果、自宅にいながら医療と介護サポートの両方を受けることができるようになるでしょう。また関係各所が連携することで介護生活の障壁を減らし、問題を抱えた高齢者本人だけでなく介護者の負担軽減も可能だと言われています。
地域包括ケアシステムの導入に伴い、高齢者の自活に必要なサービスが豊富に提供されるようになります。具体的には配食サービスや見守り・安否確認などの「生活支援」やサービス付き高齢者住宅や空き家を活用した「住まい」の提供や「介護サービス」など、必要に応じて細かなサービスです。また、元気な高齢者には社会参加を促すこともあります。地域のボランティアや老人クラブに始まり、支援が必要な高齢者のサポートなども行ってもらうこともあるでしょう。こうした活動を実施することで高齢者の活躍の場が広がり、自分自身の介護予防にもつながるのです。
高齢者をサポートしていく仕組みとして大きな期待感が寄せられる地域包括ケアシステムですが、拡充に向けて解決すべき課題もあります。その1つとして挙げられるのは、地域包括ケアシステムの柱とも言える「医療と介護の連携」の難しさです。
複数の疾患を抱える高齢者や在宅の高齢者にとって医療・介護の連携は要となりますが、現状では深夜~早朝の緊急時の対応は不完全な状態となっています。人手不足の解消含め、医師や看護師と介護士が密に連携を取っていくことが今後も求められていくでしょう。
また地域包括ケアシステムは地域の自主性や主体性をもとに作り上げていく仕組みのため、地域の財源やマンパワーに依存しがちです。さらに高齢者人口などの実情も地域によって異なるためまったく同じような制度作りは難しく、「地域格差」が生まれやすいという問題点があります。これを解決するためには、他の地域の先行事例は参考にしつつ、地域の資源を把握したうえで再現していくことが重要です。
今回は地域包括ケアシステムの考え方やよい点、これからの課題について解説しました。地域包括ケアシステムは「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」を一体的にサポートしていくケア体制です。2025年の実現を目標に、現在は地域包括支援センターの配置など制度作りが進んでいます。要介護者が自宅で生活できるようになったり元気な高齢者が積極的に社会貢献できたりとメリットも大きく、高齢者をケアしていく仕組みとして期待が寄せられています。しかしながら「地域格差」が生まれやすい、「医療と介護の連携」が難しいなどの課題もあり、今後解決していくことが求められています。そのためには先行事例の研究や認知度アップが重要となってくるでしょう。