
親の介護があっても仕事を休めない|在宅介護の「もう限界」への解決策
介護にまつわるお役立ちコラム
「誰かが部屋にいる」「変な音が聞こえる」――そんな訴えに戸惑った経験はありませんか?これは認知症の症状のひとつである「幻覚」や「幻視」である可能性があります。特にレビー小体型認知症では幻視がよく見られ、本人にとっては現実と区別がつかないほどリアルに感じられています。家族や介護者が適切に対応しないと、不安や混乱を深めてしまうことも。
本記事では、認知症による幻覚・幻視の特徴や原因、対応方法について詳しく解説し、介護者として知っておきたい対処のポイントを紹介します。安心して介護に向き合うための第一歩として、ぜひ参考にしてください。
認知症による幻覚症状は、実際には存在しないものを本人がリアルに体験してしまう現象です。特にレビー小体型認知症では幻視が特徴的な症状として現れますが、アルツハイマー型認知症でも見られることがあります。
家族にとって理解しにくい症状ですが、本人にとっては確実に感じている現実であることを理解することが重要です。
幻覚(幻視)と錯覚(錯視)には根本的な違いがあります。幻覚(幻視)は「何もない所に人影が見える」など、存在しないものを認識することです。
一方、錯覚(錯視)は「ハンガーの洋服を人と見間違える」など、実在するものを誤って認識することを指します。
幻覚(幻視) | 錯覚(錯視) | |
見え方 | 実在しないものが見える | 実在するものを見間違える |
原因の例 | 目から入った情報が、脳の情報伝達経路で障害を受ける(脳細胞そのものが破壊されていることが影響) | 目から入った情報が、脳の情報処理過程で障害を受ける(視力障害、誤認、疲労、注意散漫などが影響) |
メカニズムにも違いがあります。幻覚(幻視)は目から物を見る機能を司る後頭葉に情報が伝わる途中で障害が生じ、無いものをあるように認識してしまう現象です。錯視は目から入った情報が脳で処理される際の誤認によって起こります。レビー小体型認知症では、この錯覚が引き金となって幻視につながるケースもあります。
認知症で見られる幻覚には、幻視や幻聴以外にもさまざまな種類があります。それぞれに特徴的な症状が現れ、本人にとっては非常にリアルな体験となります。
幻覚の種類 | 症状の具体例 |
幻視 | 「部屋に知らない子供がいる」「たくさんの虫が壁を這っている」など、非常にリアルな映像が見える。 |
幻聴 | 「自分の悪口を言っている声が聞こえる」「誰もいないのに電話が鳴っている」など、実在しない音が聞こえる。 |
幻味・幻臭 | 食事に対して「変な味がする」と訴えたり、何もないのに「焦げ臭いにおいがする」と感じたりする。 |
体感幻覚 | 「体に虫が這っている感じがする」「誰かに触られている感覚がある」など、皮膚や臓器に関する異常な感覚を訴える。 |
認知症のタイプによって現れやすい幻覚が異なることも特徴です。レビー小体型認知症では幻視が、アルツハイマー型認知症では幻聴や妄想が現れやすい傾向があります。
認知症による幻覚は、さまざまな要因が複合的に作用して発生します。原因を理解することで、適切な対応や予防策を講じることが可能になります。
主な原因として、認知症の種類による特徴的な要因、脳機能の全般的な低下、そして認知症以外の要因が挙げられます。
レビー小体型認知症は、幻覚、特にリアルな幻視を引き起こす代表的な原因です。この認知症の名前の由来となっている「レビー小体」とは、脳内に蓄積する異常なタンパク質の塊のことで、神経学者のフリードリヒ・レビーにちなんで名付けられました。このレビー小体が脳内の神経細胞に蓄積することで、さまざまな症状が引き起こされます。
このタンパク質の蓄積により、視覚情報を処理する後頭葉や記憶を司る側頭葉の神経細胞が破壊されるため、実際にないものが見える幻視が発現するようになります。
レビー小体型認知症の幻視には特徴があります。本人がその内容を詳細かつ鮮明に語ることができ、記憶障害が軽度な場合は幻視体験を長く覚えていることがあります。「背中に黄色い羽がある虫がテーブルのうえに3匹いた」といった具体的な描写をすることも少なくありません。
認知症になると認知症の種類に関わらず、脳の働きが低下して幻覚を起こす原因の一つになります。
脳内の細胞同士の連絡がうまく取れなくなって、見る・聴く・触るといった感覚や、物の位置を把握する能力にトラブルが生じ、幻覚が現れることがあります。また、不安や恐怖といった心理的なストレスも幻覚を誘発する可能性があります。
認知症の方は負の感情を記憶しやすい特徴があるため、「幻覚を見ることでさらに不安が増す」という悪循環に陥りやすいことも問題となります。このため、環境を整えて不安を軽減することが重要な対策となります。
幻覚は認知症以外の原因でも起こりうる症状です。具体的には、統合失調症、アルコール依存、薬薬物依存、器質性精神疾患、心因反応、躁うつ病などの精神疾患などが挙げられます。また、薬の副作用として、特に「せん妄」が幻覚を引き起こすことがあります
認知症の周辺症状(興奮など)を抑えるための睡眠薬や抗不安薬が、副作用として軽度の意識障害である「せん妄」を引き起こし、幻覚につながる場合があります。幻視などの幻覚が現れた時は、脳機能低下による認知症の症状だと決めつけずに、かかりつけの医師に相談して、他の原因も含めて検討することが大切です。
参考:厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳|幻覚
参考:MSDマニュアル|せん妄
認知症による幻覚症状への対応は、本人の尊厳を守りながら安心感を提供することが最も重要です。間違った対応は症状を悪化させる可能性があるため、適切な知識に基づいた対応が求められます。
ここでは、日常的に実践できる具体的な対応方法について詳しく解説します。
「たくさんの虫が壁を這っている」など幻覚を訴える本人に対して、「そんなものはいない」と否定することが最も避けるべき対応です。本人にとっては紛れもない現実であり、否定されることで孤立感やストレスを感じ、強い抵抗や興奮につながるためです。
まずは「そうなんだね」「何が見えるの?」と、本人の話を遮らずに最後まで聞き、その体験を受け止める姿勢を示すことが重要です。共感を示した上で、「お茶でも飲もうか」「好きなテレビ番組が始まるよ」など、本人の注意を自然に別の物事へそらし、気分転換を図ることも有効な方法です。
幻覚の内容は、本人にとって恐怖や危険を感じさせるものである場合が少なくありません。不安を和らげ、安心感を与えるための具体的な声かけや行動が必要です。「部屋に知らない子供がいる」などの訴えには、「帰るように言ったから大丈夫だよ」と伝えたり、一緒にその場所へ行って安全を確認したりします。
「たくさんの虫が壁を這っている」という訴えには、追い払うふりをするなど、訴えの内容に合わせて行動で安心させてあげることも効果的です。近くに寄ったり、背中をさすったりすることで幻覚が消えることもあるため、穏やかな身体的接触も有効な場合があります。
幻覚(幻視)・錯覚(錯視)は、環境を整えることで発生頻度を減らせる可能性があります。幻覚が起こりにくい部屋作りの具体的な工夫は以下のとおりです。
【幻覚が起こりにくい部屋作りの工夫例】
本人にとってリラックスできる環境であることが第一なので、明るさなどを調整する際は本人の意見を聞きながら進めることが重要です。
幻視や幻聴などの幻覚症状に対して、薬による治療が行われる場合があります。レビー小体型認知症の治療薬としてはドネペジル(アリセプト)が承認されており、脳内の神経伝達のバランス改善への効果があると考えられています。
レビー小体型認知症では、薬に対して過敏に反応することがあるため、投与には特に慎重さが求められます。一般的な薬剤であっても、少量でも体調を悪化させることがあるため、専門医が極めて少量から開始し、利用者の状態を注意深く観察しながら用量を調整する必要があります。
治療は薬物療法だけでなく、本人の精神状態を安定させるためのリハビリテーションといった非薬物療法と組み合わせて行うことが大切です。
認知症の方の幻覚症状への対応、特に夜間や緊急時の対応は、ご家族にとって心身ともに大きな負担となりうることがあります。介護保険の適用範囲外のニーズにも応える自費の訪問介護・看護サービス「イチロウ」が、家族の負担を軽減する一つの有効な選択肢です。
「イチロウ」の具体的なサービスの特徴と利用メリットは以下の通りです。柔軟な対応力として、早朝・夜間を含む24時間365日のサービス提供、最短で当日からの利用も可能であり、急な要望にも応えてくれます。専門的なケアでは、認知症の方への対応も可能で、自宅や入院中の病院内での見守り、外出の付き添いまで幅広くサポートしてくれます。
明確な料金設定として、1時間あたり3,190円(税込)からの料金で、必要な時に必要な分だけ専門家の力を借りることができます。
認知症による幻覚は、家族にとって困惑する症状ですが、正しい知識と対応方法を身につけることで、患者の不安を軽減し、安心できる生活環境を提供できます。幻覚と錯覚の違いを理解し、本人の体験を否定せずに受け止める姿勢が何より重要です。適切な住環境の整備や専門的なサポートを活用することで、介護者の負担も軽減されます。認知症の幻覚について学ぶことで、患者とその家族がより良い関係を築き、質の高い介護生活を実現できるでしょう。
認知症による幻覚について、多くの家族や介護者が抱く疑問があります。ここでは、特によく寄せられる質問に対して、正確な情報をもとに回答します。
幻覚は認知症だけにみられる症状ではありません。幻覚を引き起こす可能性のある他の病気や状態として、統合失調症やうつ病といった精神疾患、アルコール依存症、特定の薬の副作用などが挙げられます。幻覚の原因を正しく突き止めるために、自己判断せずに必ず医師に相談することが重要です。
幻視症状は、夕方から夜間にかけての薄暗い時間帯に出現しやすい傾向があります。その理由として、暗さによって周囲のものがはっきりと認識できず、家具の影などが人の形に見えるなど、錯視が誘発されやすくなるためと考えられます。対策として、日が傾き始めたら早めに室内の照明をつけて、部屋を明るく保つことが有効です。
参考:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター|妄想が入ってきていろいろな人物に代わります。時々「殺せ!」と言います。どのように対応すればいいでしょうか
幻視や幻聴といった幻覚体験がきっかけとなり、「お金を盗まれた」「悪口を言われている」といった被害妄想に発展することがあります。対応の基本は幻覚症状と同じであり、まずは本人の訴えや感情を否定せずに受け止めることが最も重要です。事実関係を正そうとするのではなく、「それはつらいですね」「心配ですね」と本人の不安な気持ちに寄り添い、共感を示すことで興奮を鎮め、安心感を与えることを優先します。
これはレム睡眠行動障害(RBD) と呼ばれる症状で、レビー小体型認知症の特徴の一つです。通常、レム睡眠中は筋肉の緊張が低下しますが、レビー小体型認知症では夢の内容を実際の行動に移す場合があります。対応策としては、ベッド周りの危険物を除去したり、ベッドの高さを低くしたり、安全確保が重要です。また、症状の頻度や服薬効果を記録して専門医に相談し、必要に応じて夜間対応の訪問介護サービスなども活用しましょう。