介護にまつわるお役立ちコラム
高齢者の一人暮らしの限界はいつ?問題点と対策を紹介
一人暮らしをしている高齢者の中には、「いつまで自立した生活を送れるか」といった不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。この記事では、高齢者の一人暮らしの限界について、現状や問題点を交えながら解説します。
また、一人暮らしが限界になる前に行うべきことや、活用できるサービスについても紹介しているため、ご自身やご家族の将来設計にお役立てください。
近年、日本では単身高齢者の割合が増加傾向にあります。内閣府の調査によると、2015年時点で高齢者人口に占める単身高齢者の割合は、男性13.3%、女性21.1%でした。2020年には、男性15.0%(プラス2.3%)、女性22.1%(プラス1.0%)に増加しており、今後もこの傾向は続くと推計されています。
単身高齢者の割合が増加している主な理由は、婚姻率の低下や核家族化の進行が挙げられます。特に婚姻率の低下は顕著で、厚生労働省の調査では、1972年をピークに減少傾向が続き、2022年の婚姻率は過去最低の4.1%を記録しました。核家族化の進行とあわせて、一人暮らしの高齢者が増えていくことが予想されます。
高齢者の一人暮らしの限界の目安となるのが、平均健康寿命です。健康寿命とは、長期的な医療や介護に依存せず、自立した生活を送れ年齢を指します。厚生労働省の調査によると、2019年時点の健康寿命は、男性72.68歳、女性75.38歳となっています。
つまり、70代半ばを過ぎると、男女ともに健康上の問題で日常生活に何らかの支障が出る可能性が高くなります。ただし、健康寿命はあくまで平均値であり、個人差が大きいことも留意しておく必要があります。
高齢者が一人暮らしに限界を感じるポイントは人それぞれであり、主に以下のような状況が挙げられます。
- 漠然とした不安がある
- 歩行や介助や器具が必要になった
- 認知症の症状を発症した
- 入院したことで心身の状態が悪化した
それぞれ説明します。
一人暮らしの高齢者が抱える漠然とした不安には、次のようなものがあります。
- 日々の家事や食事作りが億劫になってきた
- 外出の意欲がなく、自宅に籠りきりになっている
- 孤独死への不安がある
- 一度詐欺被害にあって、生活に自信がなくなった
- 病気を経て体力が落ちている
上記ような不安を感じ始めたら、一人暮らしに限界が近づいている可能性があります。特に自宅内で転倒などの事故が起きれば、重大な健康問題に発展するリスクもあるため、注意が必要です。
杖や歩行器を使用しているなど、日常での歩行に不安がある場合、介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホームへの住み替えを検討するケースが増えています。自力での移動が難しくなり、常に介助が必要な状態では、一人暮らしを続けるのは危険を伴うからです。
また、転倒して起き上がれなかった経験がある方や、バリアフリーでない自宅で転倒リスクを感じている方も、老人ホームへの入居を視野に入れ始める傾向にあります。歩行機能の低下は、一人暮らしの限界を示す大きなサインと言えるでしょう。
LIFULL介護の調査によると、一人暮らしの高齢者が老人ホームや介護施設への入居を検討する最も多い理由は「認知症があった」というものでした。具体的な症状として、「排せつの失敗をする」「お金の管理ができない」などが挙げられています。
認知症は一人暮らしの難しさを実感する代表的な症状です。また、「怒りっぽくなる、暴力をふるう」のような周囲に負担をかけやすい症状の進行も、入居のきっかけとなることが多いようです。認知症を発症したら、一人暮らしは限界に近づいていると考えられます。
病気やケガで入院し、以前はできていたことができなくなったことから、一人暮らしに限界を感じるケースは少なくありません。特に高齢者は、体力を奪う重篤な疾患等で長期間入院した際、筋力や意欲の低下などにより、入院前よりも心身の状態が悪くなりやすい傾向にあります。
退院後の生活に不安を抱えることに加え、「今後自宅で転倒や疾患の発生・悪化といった異常事態が起こったとき、自力では対処できないかもしれない」という不安から、一人暮らしの継続を諦める方も多いです。入院がきっかけで心身の状態が悪化した場合、一人暮らしからの転換を真剣に検討する必要があるでしょう。
一人暮らしの高齢者は、様々な問題点に直面します。ここでは主な問題点を詳しく見ていきましょう。
- ケガや病気の対応に遅れる
- 認知症の発症や進行に気づきにくい
- 孤独を感じてしまう
- 自然災害の対応が遅れる
- 詐欺などの犯罪に巻き込まれる可能性がある
- お金の管理が難しくなる
- 家のメンテナンスが難しくなる
一人暮らしの高齢者は、ケガや病気をした際に頼れる人が少ないという実態があります。内閣府の調査では、近所の方と「病気のときに助け合う」と答えた人は男性8.4%、女性13.3%、「家事やちょっとした用事を頼める」と答えた人も男性7.6%、女性9.1%にとどまっています。
つまり、高齢者の多くは、ケガや病気で動けなくなった際、すぐに助けを求められる環境にないのです。一人暮らしでは、異変に気づくのが遅れたり、適切な対処が行えなかったりするリスクが高まります。
一人暮らしの高齢者は、認知症の初期症状に気づくことが難しいと言われています。物忘れが多くなる、同じことを何度も言う、といった些細な変化も、認知症の兆候である可能性があります。
同居家族がいれば早期発見につながりますが、一人暮らしではそれが望めません。認知症に気づかないまま進行すると、食事や服薬の管理ができなくなったり、徘徊により行方不明になったりと、深刻な事態を招くおそれがあります。
一人暮らしの高齢者にとって、孤独は大きな問題です。内閣府の調査では、親しい友人や仲間が「ほとんどいない、または全くいない」と答えた高齢者が合わせて20%に上っています。
人とのつながりが乏しいと、孤独感からストレスを抱え、心身の健康を損ねる危険性があります。孤立した生活が続けば、生活意欲の低下にもつながりかねません。一人暮らしの高齢者は、積極的に地域のコミュニティに参加するなど、孤独の解消に努める必要があるでしょう。
一人暮らしの高齢者は、自然災害への対応が遅れがちです。地震や台風、洪水などの発生数が多い日本では、日頃からの備えと、いざというときの迅速な行動が欠かせません。
しかし、一人暮らしでは、危険を察知したり、素早く避難したりすることが難しくなります。特に、体が不自由な高齢者は、一刻を争う事態に対応しきれないおそれがあります。自然災害への備えを怠らず、地域の支援体制を把握しておくことが大切です。
一人暮らしの高齢者は、詐欺などの犯罪のターゲットになりやすい傾向にあります。判断力や認知力の衰えた高齢者は、犯罪者から見れば格好の標的と言えます。
振り込め詐欺、悪質商法、オレオレ詐欺など、手口は多岐にわたります。被害に遭っても、一人では泣き寝入りせざるを得ないケースも少なくありません。日頃から詐欺の手口を学び、不審な連絡には十分注意する必要があります。
高齢者は、思考能力や判断能力の低下に伴い、お金の管理が難しくなる傾向にあります。日常の買い物では、つい衝動買いをしてしまったり、必要以上の物を購入してしまったりするリスクがあります。
また、認知症が進行すると、払うべき公共料金の存在を忘れてトラブルになるケースや、お金を何に使ったのか覚えていられなくなることもあります。高齢期のお金の管理は、早めに家族や専門家に相談し、適切な方法を検討することが賢明です。
一人暮らしの高齢者にとって、家の手入れやメンテナンスは大きな負担です。特に戸建て住宅では、庭の手入れ、外壁の修繕、屋根の点検など、維持管理に多くの労力を要します。
体力の衰えた高齢者が、一人でこうした作業をこなすのは容易ではありません。放っておけば、家が傷み、居住環境が悪化するおそれがあります。衛生面の問題から感染症のリスクが高まることも考えておかなければなりません。
また、室内の散らかりが片付けられず、床に物が散乱した状態では、つまずきや転倒の危険が増します。高齢期の住まいは、できるだけコンパクトで管理しやすい環境を選ぶことが肝要と言えるでしょう。
一人暮らしの高齢者が、いつまでも自立した生活を送るために、日頃から心がけたい3つのポイントを見てみましょう。
- 食事や運動に気を使う
- コミュニティやボランティアに参加する
- 自宅の環境を整備する
一人暮らしの高齢者は、少しの健康の乱れでも、生活の質が著しく低下するリスクがあります。健康維持のカギは、バランスの取れた食事と適度な運動です。
栄養バランスに優れ、カロリーを抑えた食事を心がけましょう。自炊が難しい場合は、配食サービスの利用も一案です。食事宅配サービスでは、栄養価の高い食事を定期的に届けてもらえます。
また、散歩やストレッチなど、無理のない運動を習慣づけることも大切です。家の中に閉じこもりがちな一人暮らしでは、体を動かす機会が減りがちです。体力の維持向上を意識した生活リズムを作りましょう。
高齢者の孤独は、心身の健康に影響するだけでなく、一人暮らしの限界を早める要因にもなります。地域のコミュニティ活動やボランティアに積極的に参加し、人とのつながりを保つことが大切です。
趣味のサークル、老人クラブ、ボランティア団体など、自分に合った活動を選んで参加してみましょう。交流を通じて生きがいを見出し、互助の関係を築くことで、一人暮らしの不安を和らげることができます。
社会参加は、認知機能の維持にも効果的です。閉じこもりを防ぎ、他者との交流を保つことで、認知症のリスクを下げる効果もあると考えられています。
一人暮らしを続けるには、住環境の整備も欠かせません。家の中の段差を解消し、手すりを設置するなど、バリアフリー化を進めることで、転倒のリスクを減らせます。
また、緊急通報システムや見守りセンサーの導入も検討しましょう。急病やケガなどの緊急事態に、迅速に対応できる体制を整えておくことが重要です。
日常的に使う家具や家電は、使い勝手の良い配置に工夫しましょう。動線を短くし、無駄な動きを減らすことで、家事の負担を軽減できます。室内の整理整頓を心がけ、安全で快適な生活空間を保つことも大切です。
一人暮らしに限界を感じた場合、子どもなど親族との同居を検討する高齢者もいるでしょう。しかし、安易な同居は、かえって問題を引き起こすリスクがあります。
同居には、家事の分担や生活費の節約といったメリットがある一方で、生活習慣の違いからストレスが生じやすいというデメリットもあります。特に、介護を目的とした同居では、家族の負担が大きくなりがちです。
介護疲れから、高齢者への虐待に発展するケースも決して少なくありません。また、家族に遠慮から、必要な介護サービスを利用できないこともあります。
同居は、家族間の十分な話し合いと合意が不可欠です。安易な決断は避け、それぞれの生活スタイルや価値観を尊重しながら、慎重に検討することが賢明でしょう。
一人暮らしに限界を感じたら、公的・民間のサービスを上手に活用しましょう。ここでは、以下の主なサービスを紹介します。
- 食事の配達サービス
- 見守り・安否確認サービス
- 任意後見制度
- 自治体によるサービス
- 老人ホームの入所
- 介護サービス(介護保険制度で受けられるサービス)
- 介護保険外サービス
バランスの取れた食事は、健康維持に欠かせません。調理が難しくなった高齢者は、食事の配達サービスを検討しましょう。栄養バランスに配慮した食事を届けてもらえるので、低栄養のリスクを防げます。
配食サービスは、自治体や民間事業者が提供しています。1食あたりの料金は400円~800円程度が相場です。利用頻度や自身の予算に合わせて、サービスを選びましょう。
一人暮らしの高齢者を遠くから見守る、安否確認サービスの利用も一案です。電話や訪問による定期的な安否確認、緊急時の駆けつけ支援などを行ってくれます。
地方自治体の中には、民間事業者と提携し、安否確認と合わせて食材などを届ける「見守り訪問サービス」を実施しているところもあります。異変の早期発見と、一人暮らしの不安解消につながるサービスと言えるでしょう。
判断力が低下したときに備えるなら、任意後見制度の活用がおすすめです。信頼できる第三者(任意後見人)と契約を結んでおくことで、判断能力を失った際の財産管理や身の回りの世話を任せられます。
任意後見制度は、高齢者の権利を守り、残された財産を適切に引き継ぐ仕組みです。元気なうちに備えを始められるのが大きな利点と言えます。家族や親族だけでなく、弁護士などの専門家に依頼することもできます。
介護保険サービスとは別に、自治体独自の高齢者支援制度を設けているところもあります。配食、見守り、外出支援など、サービス内容は様々です。
社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業では、金銭管理のサポートも受けられます。公的機関のサービスは費用も比較的抑えられるので、積極的に活用を考えたい制度と言えます。最寄りの自治体に、利用できる制度を問い合わせてみましょう。
一人暮らしの限界が近づいたら、老人ホームへの入居も視野に入れましょう。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などでは、安心して暮らせる環境が整っています。
ホームでは食事や掃除、見守りなどの日常的なサポートを受けられるほか、体調の変化にもすぐ気づいてもらえます。同じ境遇の高齢者とのコミュニケーションも、孤独感の解消につながるでしょう。
費用面では、一時金や月々の利用料がかかります。年金収入や貯蓄を考慮しつつ、早めに入居先を探しておくことが肝心です。
要介護認定を受けた高齢者は、介護保険制度を利用できます。ホームヘルプサービス(訪問介護)や訪問看護、デイサービスなど、心身の状態に合わせた各種サービスを利用して、在宅生活を続けることも可能です。
ケアマネジャーに相談しながら、自分に合ったケアプランを作成してもらいましょう。公的サービスを上手に活用することで、一人暮らしの負担を大きく軽減できるはずです。
介護保険制度のサービスだけでは、高齢者の生活を支えきれない部分もあります。制度の対象外となる家事援助や外出支援、見守りなどのサービスは、介護保険外サービスとして民間事業者が提供しています。
こうしたサービスは、比較的元気な高齢者でも利用可能です。体調に不安がある方、一時的な支援を必要とする方などに向いています。ただし全額自己負担になるため、利用にあたっては費用面の確認が必要です。
介護保険外サービスの選択肢の一つに、「イチロウ」が提供する一人暮らしの高齢者向けサービスがあります。家事や移動、見守りなど、幅広い生活支援を行っているのが特徴です。
首都圏と関西圏を中心に事業を展開しており、365日24時間対応が可能。一人暮らしに不安を感じ始めた高齢者の、頼れるパートナーになってくれるサービスと言えるでしょう。
高齢者の一人暮らしは、70歳代半ばが一つの限界の目安になります。ただし個人差が大きく、認知症の発症や病気、ケガなどを機に、それ以前に一人暮らしが難しくなるケースは少なくありません。
一人暮らしの限界は、健康の悪化だけでなく、社会的孤立や生活機能の低下など、複合的な要因から訪れます。日頃から健康管理と社会参加を心がけ、一人暮らしの限界を遅らせる努力が大切です。
そして、一人での生活が厳しくなったときには、早めに公的・民間のサービスを利用する選択肢を検討しましょう。在宅での支援から施設入居まで、ニーズに合った多様なサービスが用意されています。
一人で抱え込まず、周囲の力を上手に借りながら、安心できる生活環境を整えていくことが、高齢期を穏やかに暮らすための鍵と言えるでしょう。