介護にまつわるお役立ちコラム

【食べない】高齢者の食事拒否!原因や対応方法を徹底解説

2024年07月23日

高齢者の方が食事を拒否してしまう、いわゆる「食事拒否」に悩まされている介護者の方は多いのではないでしょうか。栄養が偏ってしまうことや、体調を崩してしまうことが心配ですよね。この記事では、高齢者の食事拒否の原因についてご説明するとともに、適切な対応方法をわかりやすく解説します。ぜひ参考にしてみてください。

1高齢者が食事拒否をする主な原因

高齢者が食事拒否をする原因には、主に以下のようなものがあります。

  • 飲み込む力の低下
  • 筋力の低下
  • 食事の内容
  • 食事をする環境
  • 口腔トラブル
  • 体調不良
  • 認知症の進行

まずはどういった原因があるのか、以降で詳しく解説します。

飲み込む力の低下

嚥下する力の低下とは、食べ物を口から飲み込む際の筋肉の力が衰えてしまうことを指します。加齢に伴い、舌の動きが鈍くなったり、食道から胃に送り込む力が弱くなったりすることで、食べ物を上手く飲み込めなくなってしまうのです。その結果、食事中にむせたり、吐いたりすることが多くなります。

 

こうした嚥下機能の低下により、十分な栄養が摂れないだけでなく、誤嚥性肺炎などの深刻な健康被害につながることもあります。高齢者にとって、食事は単なる栄養補給の場ではなく、楽しみの一つでもあります。しかし、嚥下機能の低下により食事中に苦しい思いをすることで、次第に食事そのものがトラウマとなり、積極的に食べようという意欲を失ってしまうのです。こうした悪循環になることで、高齢者の食事拒否は起こりやすくなってしまうのです。

筋力の低下

筋力の低下とは、身体を動かす筋肉の力が衰えてしまうことを指します。加齢により筋肉量が減少し、それに伴って筋力も低下していきます。筋力が低下すると、体を支える力が弱くなるため、姿勢が悪くなりがちです。猫背になったり、前かがみになったりすることで、内臓が圧迫され、消化機能が低下します。

 

また、体を動かすこと自体が面倒になるため、活動量が減少し、さらに筋力が低下するという悪循環におちいります。こうした筋力の低下は、食欲の減退にもつながります。姿勢が悪いと、胃や腸を圧迫し、食べ物を受け入れるスペースが狭くなるのです。また、活動量の低下は、エネルギー消費量の減少を意味するため、自然と食べる量も減ってしまいます。こうした食欲不振が続くことで、高齢者は次第に食事そのものを拒否するようになってしまうのです。

食事の内容

食事の内容とは、食事のメニューや味付け、盛り付けなどの要素を指します。高齢者は、加齢に伴って味覚が鈍くなるため、若い頃と同じ味付けでは物足りなく感じることがあります。また、歯の衰えにより、硬い食べ物が食べづらくなることもあります。こうした身体的な変化に対応しきれていない食事内容では、高齢者の食欲を十分に引き出すことができません。

 

さらに、高齢者には、苦手な食べ物や食べ合わせがあることも多いものです。無理に食べさせようとすると、かえって食事をすることへのストレスになってしまいます。高齢者の嗜好を無視した食事内容では、徐々に食事への意欲が失われ、最終的には食事拒否につながってしまうのです。高齢者の心身の状態に合わせて、柔軟に食事内容を工夫していくことが大切だと言えるでしょう。

食事をする環境

食事をする環境とは、食事の際の準備や雰囲気のことを指します。食事の際に大きな音がしていたり、照明が暗すぎたりすると、集中力が途切れてしまうものです。また、食事の時間帯や場所が一定でないことも、高齢者にとっては負担になります。そのため、高齢者が食事に集中できるような環境を整えることが重要なのです。

 

具体的には、食事の際にはテレビを消してできるだけ静かな環境を整えたり、食事の場所や時間をできるだけ一定に     生活リズムを整えたりすることが大切です。こうした食事環境への配慮が不十分だと、高齢者は食事に集中できず、食欲が低下して十分な栄養を摂取できなくなってしまいます。そして、次第に食事そのものが面倒なものと感じられるようになり、食事拒否につながっていくのです。

口腔トラブル

口腔トラブルとは、口腔内の衛生状態の悪化や、歯の欠損、入れ歯の不具合などを指します。高齢者は、加齢に伴って唾液の分泌量が減少し、口腔内の自浄作用が低下します。そのため、口腔内に細菌が繁殖しやすくなり、虫歯や歯周病などの口腔トラブルを引き起こしやすくなるのです。

 

こうした口腔トラブルがあると、食事の際に痛みを感じたり、上手く噛めなかったりするため、食べる意欲が低下して     しまいます。特に、入れ歯の不具合は、高齢者の食事拒否の大きな原因の一つと言えるでしょう。入れ歯が合っていないと、食べ物を噛んだ時に痛みを感じたり、食べ物が口の中で上手く動かせなかったりします。こうした不快感から、高齢者は徐々に食事を避けるようになってしまうのです。適切な口腔ケアを行い、口腔トラブルを未然に防ぐことが、高齢者の食事拒否を防ぐための重要なポイントだと言えます。

体調不良

風邪などの一時的な病気や、慢性的な持病の悪化、服用している薬の副作用などによる身体の不調も、食事拒否につながる可能性があります。高齢者は、若い人に比べて免疫力が低下しやすいため、体調を崩しやすい傾向にあります。体調が優れないと、食欲が減退し、十分な栄養を摂取できなくなってしまいます。特に、便秘は高齢者に多い体調不良の一つです。便秘が続くと、腹部の不快感から食事が進まなくなります。

 

また、持病の悪化や服用している薬の副作用によって、吐き気や胃部不快感を生じることもあるでしょう。こうした消化器系の不調は、食事拒否につながります。さらに、体調不良が続くことで、食事そのものが面倒に感じられるようになり、徐々に食事を避けるようになってしまうのです。高齢者の体調変化に気を配り、異変があればすぐに対処することが、食事拒否を防ぐために重要だと言えます。

認知症の進行

認知症が進行すると、物事の理解力や判断力が低下し、日常生活に支障をきたすようになります。食事の場面でも、食べ物ということが認識できなくなったり、食べ方を忘れてしまったりすることがあるでしょう。例えば、目の前に並んだ料理を見ても、それが食べられるものだと理解できなかったり、箸の使い方がわからなかったりすることがあります。こうした状態では、食事に意欲を持つことが難しくなります。

 

さらに、認知症の進行によって、味覚や嗅覚が鈍くなることもあります。味が薄く感じられたり、匂いが分かりづらくなったりすることで、食べる楽しみが失われてしまうのです。こうした認知症の症状が重なることで、高齢者は次第に食事を拒否するようになってしまいます。認知症の進行を遅らせるケアを行いながら、高齢者の状態に合わせた食事の工夫を行うことが求められます。

 

2認知症の種類によって食事拒否の原因は違う?

認知症と一口に言っても、種類によって症状や特徴が異なります。食事の場面においても、食事拒否の原因や現れ方も、認知症の種類によって違いが見られます。ここでは、代表的な認知症である以下の3つのタイプについて、食事拒否の特徴を詳しく見ていきましょう。

  • アルツハイマー型認知症
  • レビー小体型認知症
  • 血管性認知症
アルツハイマー型認知症のケース

アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も発症頻度が高いタイプで、全体の約60~70%を占めると言われています。脳内の神経細胞が徐々に死滅していくことで、記憶障害や見当識障害などの症状が現れるのが特徴です。

 

アルツハイマー型認知症の場合、食事拒否は主に「食べ物を認識できない」「食べ方がわからない」ことが原因となります。物忘れが進行し、目の前のものが食べ物だと理解できなくなってしまうのです。また、食事の手順を忘れてしまい、箸やスプーンの使い方がわからなくなることもあります。具体的には、以下のような症状が見られることがあります。

  • 料理を見ても、食べ物だと認識できない
  • 箸やスプーンを持っても、どう使えばいいかわからない
  • 食事の順番が理解できず、1点喰いしてしまう
  • 食事中に突然立ち上がり、テーブルから離れてしまう

こうした症状が現れると、高齢者は戸惑い、食事に意欲を持てなくなってしまいます。料理を美味しそうに配膳したり、丼もので提供したりするなどの工夫が必要です。

レビー小体型認知症のケース

レビー小体型認知症は、パーキンソン病に似た症状を伴う認知症です。手足の震えや筋肉の固さ、幻視などが特徴的に現れます。認知症全体の4〜5%程度を占めると言われています。レビー小体型認知症の場合、以下のような症状により食事拒否が起こります。

  • 手が震えて箸やスプーンが上手く使えない
  • 幻視により、食べ物の中に虫が見えるなど、非現実的なものが見える
  • 身体が前傾してしまい、食事の姿勢が上手く保てない
  • 食べ物を飲み込む力が低下し、むせることが多くなる

こうした症状が重なることで、高齢者は食事に対する意欲が低下していきます。手の震えに合わせた食事介助や、幻視が見えにくい環境を整えるなど、個々の症状に合わせたケアが求められます。

血管性認知症のケース

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などによって引き起こされる認知症です。手足の麻痺や言語障害などの症状が現れるのが特徴で、認知症全体の15~20%程度を占めると言われています。血管性認知症の食事拒否は、身体的な障害や高次脳機能障害による症状が主な原因となります。

  • 片麻痺などにより、食事の姿勢が保てない
  • 麻痺により、口が上手く開かない、噛む力が弱くなる
  • 飲み込む力が低下し、食べ物が喉に詰まりやすくなる
  • 言語障害により、食べたいものを上手く伝えられない

こうした身体的な症状に加えて、脳の損傷部位によっては、食べ物を認識できなくなることもあります。食事の姿勢を工夫したり、食べやすい形状の食事を提供したりと、身体の状態に合わせたサポートが欠かせません。

3食事拒否された際の対応方法

高齢者の食事拒否は、介護者にとって大きな悩みの一つです。食べてもらえないことで、栄養不足や体力低下が心配になります。しかし、食事を無理強いしても、高齢者にとってはストレスになるだけで、かえって状況が悪化してしまうことがあります。

 

では、食事を拒否された際には、どのように対応すればよいのでしょうか。ここでは、以下の点について詳しく見ていきます。

  • 適切な食事介助と声かけを行う
  • 本人の気持ちを尊重する
  • 体調・口腔内の管理をする
  • 食事内容を工夫する
  • 好きなメニューを提供する
  • 食事環境を整える
  • 食事の前に排泄を促す
  • 適度な運動を促す
適切な食事介助と声かけを行う

適切な食事介助と声かけを行うとは、高齢者の状態に合わせて、食事の手助けをすることを指します。認知症が進行すると、食べ物を認識できなかったり、食べ方がわからなくなったりします。こうした場合、ただ食事を用意するだけでは不十分で、高齢者は戸惑ってしまい、食べられなくなってしまいます。

 

そこで、介護者が一緒に食卓に着き、「これはおいしい○○ですよ」と料理の内容を伝えたり、スプーンの使い方を見本として見てもらったりすることが効果的です。高齢者は、介護者の行動を見て、自然と真似をすることができる場合があり     ます。

 

また、認知症の人は、自分で食事をするのが難しくなることがあります。そのような場合は、介護者が隣に座って、さりげなく手助けをすることも大切です。決して急がせたり、強要したりせず、高齢者のペースに合わせて、ゆっくりと食事介助を行いましょう。適切な声かけと介助があれば、高齢者はスムーズに食事を進められる場合もあります。

本人の気持ちを尊重する

高齢者本人のこれまでの習慣や好みを大切にしながら、食事のケアを行うことも大切です。人はそれぞれ、好きな食べ物や食べ方、食事の時間帯などが異なります。高齢者も例外ではありません。特に認知症の人の場合、新しいことへの適応が難しくなります。そのため、急に食事の内容や時間が変わると、戸惑って食べられなくなることがあるのです。

 

介護者は、高齢者のこれまでの食習慣を把握し、できる限りそれを尊重することが大切です。また、嫌いな食べ物を無理に提供したり、食べるペースを急がせたりしないことも重要です。

 

食事を拒否された場合、叱責したり、強要したりするのは厳禁です。それでは、高齢者の食事へのストレスが増すだけで、事態の改善にはつながりません。「無理に食べなくても大丈夫ですよ」と、さりげなく声をかけ、高齢者の気持ちに寄り添う姿勢を持つことが肝心なのです。

体調・口腔内の管理をする

高齢者の健康状態と口の中の衛生状態にも気を配りましょう。体調が優れないと、当然食欲は低下します。また、口腔内に問題があると、食事の際に痛みを感じたり、うまく噛めなかったりして、食べる意欲が低下してしまいます。したがって、日頃から高齢者の体調変化を見逃さないよう、観察力を養うことが大切です。体温や脈拍、排泄の状態などに注意し、体調の異常があれば、速やかに医療機関に相談しましょう。

 

また、定期的に歯科医の診察を受け、虫歯や歯周病の予防・治療を行うことも重要です。入れ歯を使用している場合は、定期的に点検してもらうことを忘れずに行いましょう。

 

認知症が進行すると、高齢者は自分の体調の変化を正確に伝えることが難しくなります。介護者が、高齢者の小さな変化にも気づけるよう、日頃から意識して接することが求められるのです。

食事内容を工夫する

食事内容を工夫するとは、高齢者の身体機能や好みに合わせて、料理の種類や調理法、盛り付けを変えることを指します。たとえば、歯が弱くなって固いものが食べづらい場合は、野菜をやわらかく煮込んだり、肉をミンチにしたりするなどの対応が考えられます。

 

また、認知症が進むと、食べ物なのかどうかがわからなくなることがあります。そのような時は、料理の色合いを工夫して、視覚的に食べ物だと認識しやすくすることが大切です。彩りのある盛り付けは、食欲を刺激する効果もあるでしょう。

 

食器の選び方も重要なポイントです。深さのある茶碗だと、料理が見えづらいことがあります。料理が一目でわかる浅めの皿を選ぶと良いかもしれません。また、握力が弱くなった高齢者には、持ちやすく、安定感のある食器がおすすめです。

 

箸やスプーンも、高齢者が使いやすいものを選びましょう。先端が曲がっているスプーンや、持ち手の太い箸など、様々な工夫が可能です。高齢者の状態に合わせて、食事内容を柔軟にアレンジしていくことが大切なのです。

好きなメニューを提供する

高齢者の好物を積極的に取り入れることも効果的です。誰しも、好きなものは進んで食べられるものです。裏を返せば、嫌いなものは、なかなか口に運べないということ。食事拒否が続く場合は、高齢者の好みを改めて確認してみると良いでしょう。

 

昔から好きだった料理や、よく食べていたメニューを提供することで、高齢者の食欲は自然と刺激されます。季節の食材を使った料理や、彩りの良い一品があると、さらに効果的です。

 

ただし、好物だからといって、毎日同じメニューでは飽きてしまいます。管理栄養士などの助言を受けながら、バランスの取れた食事プランを立てることが大切です。高齢者の好みを把握し、それをメニューに取り入れる工夫を重ねましょう。

食事環境を整える

食事環境を整えるとは、高齢者が落ち着いて食事に集中できる空間を作ることを指します。たとえば、食事の最中にテレビがついていると、番組に気を取られて食べるのを忘れてしまうことがあります。食事の時間は、テレビを消すなどして、できるだけ静かな環境を整えましょう。

 

また、部屋が明るすぎたり、暗すぎたりすると、食べ物がよく見えず、食べづらくなります。高齢者の目に優しい明るさに調整することが大切です。

 

テーブルや椅子の高さ、座る位置も重要なポイントです。足が床につかないような高い椅子では、安定感が得られず、食事に集中できません。高齢者の体格に合わせて、椅子の高さを調節しましょう。

 

また、食事の姿勢も大切です。猫背にならないよう、背筋を伸ばして座れるよう調整しましょう。こうした、ちょっとした工夫の積み重ねが、高齢者の食欲を低下させない要因につながるのです。

食事の前に排泄を促す

トイレを済ませてから食事を始めることも大切です。食事の最中にトイレに立つと、食事が中断されてしまい、再び食べ始めるのが難しくなることがあります。特に、尿意や便意を我慢することは、高齢者にとって大きな負担。食欲が低下する原因にもなりかねません。

 

そこで、食事の前に必ずトイレに誘導し、排泄を済ませておくことが重要です。「そろそろ食事の時間ですが、その前にトイレに行きましょう」と、さりげなく声をかけるのがコツ。

 

排泄のタイミングを逃さないためにも、高齢者の排泄パターンを把握しておくことも大切です。食前のトイレ誘導を習慣化することで、高齢者はスムーズに食事を進められるかもしれません。

適度な運動を促す

適度な運動は、筋力の維持や関節の可動域の拡大につながるだけでなく、食欲の増進にも効果的です。体を動かすことで、自然とエネルギーを消費するので、空腹感が高まります。

 

ただし、高齢者の体力に合わない、激しい運動は逆効果となる可能性も。ウォーキングや体操など、負担の少ない運動から始めるのがおすすめです。

 

また、レクリエーションなどで、楽しみながら体を動かせると、高齢者も積極的に参加できるでしょう。音楽に合わせて、ゆっくりと手足を動かすだけでも十分な効果が期待できます。

 

運動の習慣をつけることで、高齢者の生活リズムも整います。活動的な日常は、規則正しい食生活にもつながる要因になります。高齢者に合った、適度な運動を継続的に行うことが大切なのです。

 

4自力で食事ができなくなった場合の対処方法

高齢者は体力の低下や認知症の進行によって、食事拒否が続くと次第に自力での食事が難しくなってくる場合があります。食べ物を飲み込む力が弱くなったり、食事の際にむせこんだりするようになると、誤嚥性肺炎などの深刻な合併症を引き起こす危険性があります。

そのような状態になった場合、以下のような方法で栄養を補給することが検討されます。

  • 高カロリー輸液
  • 経鼻胃管
  • 胃ろう造設

それぞれの特徴とメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。

高カロリー輸液

高カロリー輸液とは、血管に直接高濃度の栄養剤を点滴する方法です。通常の点滴とは異なり、高カロリー輸液は、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなど、生命を維持するために必要な栄養素を高濃度で含んでいます。

 

自力での食事が難しくなった高齢者にとって、高カロリー輸液は消化器官への負担が少なく、確実に栄養を体内に取り入れることができるのが大きなメリットです。

 

ただし、高カロリー輸液は、長期間の使用には向きません。点滴では、食物繊維などの摂取が難しいため、便秘などの問題が生じやすくなります。また、血管が細くなりやすい高齢者の場合、点滴の針を刺すのが難しくなることもあります。

 

高カロリー輸液は、あくまで一時的な栄養補給の手段と考えるべきでしょう。長期的には、他の方法を検討する必要があります。

経鼻胃管

経鼻胃管は、鼻からチューブを通して、直接胃に栄養剤を注入する方法です。チューブは、鼻の奥から食道を通り、胃に到達します。先端には、栄養剤を注入するための口があります。

 

経鼻胃管は、嚥下が困難な高齢者に対して有効な栄養補給法です。チューブを通して、必要な栄養を直接胃に送り込むことができるため、誤嚥のリスクを大幅に減らすことが可能になります。高カロリー輸液と比べて、長期間の使用にも適しています。

 

しかし、経鼻胃管にもデメリットがあります。チューブが鼻から食道を通るため、鼻や鼻腔管、食道に違和感が強く、高齢者が不快感を強く感じる場合があります。また、認知症の人の場合、チューブを自分で抜いてしまう危険性もあります。

 

経鼻胃管は、高齢者の状態をよく見極めた上で、慎重に選択する必要があります。

胃ろう造設

胃ろうとは、腹部に開けた穴にチューブを通して、直接胃に栄養剤を注入する方法です。胃ろうを造設するには、手術が必要となります。腹部に小さな穴を開け、そこにチューブを通します。

 

胃ろうは、長期間の栄養補給に適しています。チューブが直接的に胃とつながっているため、経鼻胃管と比べて違和感が少ないと言われています。また、胃ろうは、チューブの管理がしやすいことも大きなメリット。経鼻胃管と比べて、自己抜去のリスクが低いのです。

 

ただし、胃ろうの造設には、手術が必要であるというデメリットもあります。体力の低下が進行した高齢者の場合、入院や手術自体がリスクとなることがあります。また、胃ろうの周囲は、清潔に保つ必要があります。管理が不十分だと、感染症を引き起こす危険性があるのです。

 

胃ろうは、高齢者やご家族としっかりと話し合い、受け入れをよく確認する必要があります。また高齢者の全身状態をよく見極め、長期的な栄養管理の方針を立てた上で選択されるべき方法と言えるでしょう。

5まとめ

高齢者の食事拒否は、栄養状態に大きく影響します。介護者は、高齢者状態に合わせて、食事の工夫を重ねることが大切です。食事の環境を整え、高齢者の好みを取り入れ、適切な介助を行うことで、食事拒否を軽減できる場合もあります。

 

しかし、認知症が進行し、自力での食事が難しくなったときは、高カロリー輸液や経鼻胃管、胃ろうなどの選択肢を検討する必要があります。どの方法を選ぶにしても、高齢者の尊厳を守り、可能な限りQOLを維持することを第一に考えるべきです。

 

家族のサポートだけでは困難な場合は、プロに頼ることも検討してみましょう。「イチロウ」では、利用者さま一人ひとりに合わせた食事形態の工夫や、細やかな食事介助を行っています。食材の調達から食事作り・食事介助まで、簡単にプロの介護士に依頼できます。まずは相談だけでも、お気軽にお問い合わせください。

 

監修者情報

4年制大学を卒業後、首都圏の回復期リハビリテーション病院へ入職。主に脳卒中や整形疾患を患った患者様を担当。同施設内の訪問リハビリテーション部門に異動となり、在宅での訪問リハを経験。その後、地元の地域リハに興味が湧き、帰郷し現在の訪問看護ステーションへ転職。脳卒中後遺症をはじめ、整形疾患、小児疾患、神経難病を患われた方々の生活をサポートするためのリハビリを提供している。訪問看護ステーション在籍中に、精神科訪問看護研修受講、認知症ライフパートナー検定2級を取得。

岡本龍(作業療法士)
コラム一覧に戻る
icon_arrow_gotop