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ショートステイで認知症は悪化する?理由と注意点を徹底解説

2024年07月23日

認知症の方がショートステイを利用すると、慣れない環境の変化から認知症の症状が悪化するのではないかと不安に感じる介護者は少なくありません。しかし、ショートステイには家族の介護負担を軽減したり、施設入所への適応を助けたりするなど、様々なメリットもあります。本記事では、認知症の方がショートステイを利用する際の注意点やショートステイを嫌がる理由、利用の流れについて解説します。

1ショートステイとは?

ショートステイとは、介護が必要な高齢者や障がい者が一時的に施設に入所し、日常生活の支援やリハビリなどのサービスを受けられる短期入所サービスです。正式には「短期入所生活介護」と呼ばれ、介護保険制度の中で提供されています。

 

利用者は施設に短期間宿泊することで、普段の生活とは異なる環境で過ごすことができ、また家族や介護者は一時的に介護の負担から解放されてリフレッシュする時間を確保できます。ショートステイを利用すれば、在宅介護を継続しやすいでしょう。

 

ショートステイを提供している主な施設は、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、有料老人ホーム、グループホームなどです。利用期間は、1泊2日から1ヶ月程度までで、利用者の心身状態や家族の事情に応じて柔軟に設定できます。

2ショートステイを利用すると認知症は悪化するといわれる理由

認知症の高齢者がショートステイを利用すると、環境の変化に適応しきれず、一時的に認知症の症状が悪化することがあると言われています。これは、自宅での生活を続けるか施設入所するかの選択肢を検討する際に、まずはお試しとしてショートステイを利用したものの、そこでの環境変化によって認知症症状が進行してしまった例が多いことによります。

 

認知症高齢者は、住み慣れた自宅から離れて見知らぬ施設で暮らすことに強い不安や抵抗を感じることが多く、この急激な環境の変化がストレスとなって、認知機能をさらに低下させてしまうリスクがあるのです。以下に、認知症がショートステイ利用で悪化する主な理由を詳しく見ていきます。

行動が制限されるため

ショートステイ利用中は、施設内での事故防止や他の入居者への配慮から、利用者の行動に一定の制限がかかることが少なくありません。例えば、外出や散歩に制限がある、好きな時間に食事ができない、趣味の活動ができないなど、自由に行動できない環境におかれると、認知症高齢者は窮屈でもどかしい思いをしてしまいます。

 

そして、行動の自由を奪われることへの反発から、興奮したり怒ったりといった問題行動を引き起こしてしまう可能性があります。自宅でのんびり過ごしていた高齢者が、ショートステイでは急に緊張感のある生活を強いられ、認知症が進んでしまうこともあるのです。

環境の変化に混乱するため

認知症のある高齢者は、慣れ親しんだ自宅から急に環境が変わると、その変化についていくのが難しいと言われています。ショートステイ先の見知らぬ人や場所に戸惑い、「ここはどこ?私はなぜここにいるの?」と混乱状態に陥ってしまうのです。

 

こうした不安定な心理状態から、帰宅願望が強まり、「家に帰りたい」と何度も訴えたり、徘徊するなどの問題行動が悪化する場合があります。ショートステイから自宅に戻った後も、環境の変化について行けず、認知症が進行したように見えることがあるのです。

ストレスや不安が増加するため

ショートステイでは、新しい人間関係の構築を迫られたり、普段とは違う日課に従わなければならなかったりと、認知症高齢者にとってはストレスが多い環境だと言えます。初めての場所で暮らすことへの不安や、介護スタッフとうまくコミュニケーションが取れない焦りなども重なった場合、認知症の症状を悪化させてしまう可能性が高いです。

 

加えて、ショートステイ利用中は、身の回りのことを全介助されることで、自分でできていたことまでできなくなり、意欲や自信を失ってしまうこともあります。また、ほとんどの時間を居室にて一人で過ごすことになれば、刺激が減って認知機能の低下が加速してしまう恐れもあるのです。

 

ショートステイを利用することで、認知症高齢者の心身にさまざまな影響が及ぶことが分かってきました。とはいえ、一概にショートステイが認知症を悪化させるとは言えません。利用者の状態に合わせたケアプランを立て、その人らしい暮らしを支える対応を施設側が工夫することで、環境の変化になじみ、穏やかに過ごせる利用者も多いのです。

3認知症の方がショートステイを利用するメリット

認知症の方がショートステイを利用することには、いくつかのメリットがあります。ここでは、その主なメリットについて解説していきます。

長期的な入所を考えることができる

認知症の方がショートステイを利用しておくと、施設での生活の様子を知ることができます。これにより、将来的に長期的な入所が必要になった際に、ショートステイで過ごした経験を踏まえて、入所先を選ぶことができるでしょう。

まずはショートステイを試してみて、その施設が合っているかどうかを見極められるため、入所に対する不安を軽減できる可能性があります。

家族の介護負担を減らすことができる

認知症の方を普段から介護している家族にとって、ショートステイは大きな助けになります。認知症の方がショートステイを利用している間、家族は介護から解放され、自分の時間を持つことができるでしょう。

この休息期間を利用して、心身ともにリフレッシュを図ることで、介護に対するモチベーションを維持しやすくなります。家族の介護負担を減らすことは、在宅介護を長く続けるためにも重要な意味を持っています。

自宅と違う刺激を楽しめる

ショートステイ先では、自宅では得られない新しい刺激を受けることができます。施設には認知症ケアに関する知識と経験を持ったスタッフが揃っており、利用者一人ひとりに合わせた運動プログラムやレクリエーション活動を提供してくれます。

他の利用者との交流を通じて、社会性を維持したり、新しい友人を作ったりするチャンスです。こうした自宅とは違う環境で過ごす時間は、認知症の進行を遅らせる効果が期待できると考えられています。

4認知症の方がショートステイを利用する流れ

ここでは、認知症の方がショートステイを利用するまでの一連の流れについて、ステップを追って説明していきます。

1.要介護認定を受ける

ショートステイは介護保険のサービスに含まれるため、利用するためには要介護認定を受ける必要があります。要介護認定は、住んでいる地域の市区町村窓口に申請し、認定調査や主治医の意見書をもとに要介護度が判定されます。要介護1以上と認定されれば、ショートステイは利用可能です。

2.ケアマネジャーに相談する

要介護認定を受けると、介護サービスの利用を調整してくれるケアマネジャーが担当として付きます。ショートステイの利用を希望する場合は、まずケアマネジャーに相談しましょう。

ケアマネジャーに、ショートステイを利用したい理由や希望する時期、施設の条件などを伝えます。すると、ケアマネジャーが利用者の状況に合わせて、適切な施設を探してくれます。

3.ケアプランを作ってもらう

ケアマネジャーがショートステイ先の候補を見つけたら、次はケアプラン(居宅サービス計画)を作成してもらいます。ケアプランは、利用者がどのような目的でどの介護サービスをどれくらい利用するかを定めた計画のことです。

 

ショートステイの場合は、利用目的や時期、提供してもらいたい支援内容などをケアプランに盛り込みます。認知症の状態やニーズをケアマネジャーにしっかりと伝えることで、より適切なサービスを受けやすくなるでしょう。

 

ケアプランができあがったら、いよいよショートステイの利用開始となります。事前に施設とよく話し合って、利用者が安心して過ごせるように環境を整えておくことが大切です。

5認知症の方がショートステイを嫌がる理由

認知症の方がショートステイを嫌がるのには、いくつかの理由が考えられます。

  • 以前行ったときにつまらない・嫌な思いをした:過去のショートステイ利用で、レクリエーションや食事の内容に満足できなかったり、他の利用者や職員との関係がうまくいかなかったりした経験から、再度利用することに抵抗を感じている可能性があります。
  • 自宅で過ごしたい:慣れ親しんだ自宅から離れて、見知らぬ環境で生活することへの不安や恐怖心から、ショートステイを嫌がるケースがあります。自宅でのんびりと自分のペースで過ごしたいという気持ちが強いのかもしれません。
  • 家族以外に介護されたくない:認知症があっても、家族以外の人に身の回りのケアをしてもらうことに抵抗を感じる方もいます。プライバシーへの配慮や尊厳を守ることへの不安から、ショートステイを拒否する場合があります。
  • 自分のペースで生活できない:ショートステイでは、施設のスケジュールに合わせて行動しなければならないため、自由気ままに過ごせる自宅とは異なり、ストレスを感じてしまう方がいます。認知症の方は、環境の変化についていくのが難しいことも、この理由に関係していると考えられます。
6認知症の方がショートステイを断られるケース

認知症の方がショートステイの利用を申し込んだ際、受け入れ先の施設から断られるケースがあります。

  • ほかのご利用者やスタッフさんに暴言や暴力を振るう:認知症に伴って、言動が攻撃的になったり、暴力行為に及んだりする場合、他の利用者や職員の安全を守るために、施設側が利用をお断りすることがあります。
  • 帰宅願望によって落ち着きがない:認知症の方の中には、ショートステイ先から「家に帰りたい」という強い願望から、落ち着きなく徘徊したり、施設から外に出ようとしたりする方がいます。こうした行動が顕著な場合、施設での対応が困難と判断され、利用を断られる可能性があります。

また、厚生労働省が示している「正当な理由」に該当する場合、施設側は認知症の方の受け入れを拒否できることになっています。例えば、「ショートステイの利用が、利用申込者の心身の状態から見て著しく不適当である」と判断された場合などが、これに当たります。

7認知症の方がショートステイを利用する際の注意点

認知症の方がショートステイを利用する際は、いくつかの点に注意を払うことで、利用者本人も家族も安心して過ごせるようになるでしょう。

環境を自宅に合わせる

認知症の方にとって、見慣れない環境は大きなストレスになります。ショートステイ先の居室やトイレ、浴室などの配置を、できるだけ自宅に近づけることで、利用者の混乱を最小限に抑えることができます。また、自宅から使い慣れた寝具や家具、日用品を持参することも、環境の変化に適応しやすくなるポイントです。

事前に情報提供する

ショートステイ先の職員に、認知症の方の状態や特徴、生活習慣などを細かく伝えておくことが大切です。例えば、どのようなときに不安定になりやすいか、どんな言葉がけをすると落ち着くか、食事や排せつの際の留意点など、具体的な情報を提供することで、職員はその方に合ったケアを提供しやすくなります。

最初は利用時間を短くする

最初のうちは利用期間を短めにすることも大事なポイントです。突然長期間ショートステイを利用すると、環境の変化について行けずに混乱してしまう方もいます。だから、最初は2〜3日ほどの短期利用から始めて、様子を見ながら徐々に日数を延ばしていくのがおすすめ。1週間ほどまでなら大丈夫そうなら、少しずつ長めの滞在にチャレンジしてみてもいいでしょう。

8在宅介護を続けるあなたの味方「イチロウ」

在宅介護を続けていると、介護保険だけではカバーしきれないことも出てきます。そんな時、頼りになるのが自費訪問介護サービス「イチロウ」です。イチロウは、介護保険の対象外となる幅広いサービスを、24時間365日提供しています。通院や外出の付き添い、家事の手伝いなど、柔軟に対応してくれるのが特長です。

 

在宅介護を続けるか、施設に入所するかは悩ましい問題です。まずはショートステイを利用して施設の雰囲気を確かめるのも一つの方法ですが、慣れない環境の変化で認知症の症状が悪化してしまうこともあります。そういった場合、在宅でイチロウのようなサービスを利用しながら、徐々にショートステイに慣れていくのも選択肢の一つです。自宅という安心できる環境で過ごしつつ、家族の介護負担を減らせるのは大きなメリットです。介護の大変さは一人で抱え込まずに、イチロウのようなサービスを上手に活用していくことが大切です。

9まとめ

認知症の方がショートステイを利用すると、環境の変化に適応できずに一時的に症状が悪化することがあります。行動の制限やストレス、不安の増加が主な原因と考えられています。一方で、ショートステイを利用することで施設入所への適応が進んだり、家族の介護負担を減らせたりするメリットもあるのです。

 

ショートステイを検討する際は、利用者本人の性格や症状に合わせて、環境づくりや情報共有を丁寧に行うことが大切です。最初は短時間の利用から始め、徐々に慣れていくのもおすすめの方法です。

 

また、在宅介護の継続にはショートステイだけでなく、自費訪問介護サービス「イチロウ」のような柔軟で幅広いサポートを活用することも有効でしょう。介護の困難を一人で抱え込まずに、様々な社会資源を上手に利用しながら、認知症の方とご家族が安心して暮らせる方法を模索していきたいものです。

監修者情報

4年制大学を卒業後、首都圏の回復期リハビリテーション病院へ入職。主に脳卒中や整形疾患を患った患者様を担当。同施設内の訪問リハビリテーション部門に異動となり、在宅での訪問リハを経験。その後、地元の地域リハに興味が湧き、帰郷し現在の訪問看護ステーションへ転職。脳卒中後遺症をはじめ、整形疾患、小児疾患、神経難病を患われた方々の生活をサポートするためのリハビリを提供している。訪問看護ステーション在籍中に、精神科訪問看護研修受講、認知症ライフパートナー検定2級を取得。

岡本龍(作業療法士)
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