介護にまつわるお役立ちコラム

介護疲れしていない?セルフチェックで心身のSOSに気づいて対処しよう

2024年07月05日

介護疲れは介護に携わる多くの方が感じるもので、決して他人事ではありません。介護疲れを感じている人は全体の70%近くにのぼるといわれています。介護疲れを放っておくと、介護うつにつながる可能性があり、早めの対処が求められます。この記事では、介護疲れのメカニズムや原因、セルフチェック方法、対処法などを詳しく解説します。介護に携わる方、介護疲れを感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。

1介護疲れとは?原因も紹介

介護疲れは、介護をしている人が感じる心身の疲労を指します。介護疲れは身体的な負担だけでなく、精神的な負担も大きく、放っておくと深刻な問題につながります。ここでは、介護疲れがどのようなものか、どのような原因で引き起こされるのかを詳しく見ていきましょう。

介護疲れの原因

介護疲れの原因は大きく分けて3つあります。

 

1つ目は身体的な負担。介護には、体位変換や移乗、排泄の介助など、身体を使う作業が多く含まれます。中腰の姿勢が続いたり、不自然な姿勢を取ったりすることで、腰痛や肩こりなどの症状が現れることも。また、夜間の排泄介助などで十分な睡眠がとれないと、身体的な負担を大きくします。

 

2つ目は精神的な負担。介護は1日24時間、365日休みがありません。先の見えない介護に不安を感じたり、要介護者の認知症による問題行動に振り回されたりと、絶えずストレスにさらされます。自分の時間が持てない、家族や周囲の理解が得られないなど、介護者の孤立感も精神的な負担を大きくします。

 

3つ目は経済的な負担。介護には、おむつなどの消耗品や介護サービスの利用料など、さまざまな出費がかかります。また、仕事と介護の両立が難しくなり、収入が減ってしまうケースもあるでしょう。先行きが不安定な経済状況も、介護者の大きなストレス要因となります。

介護疲れを感じている人の割合は?

厚生労働省が実施した国民生活基礎調査によると、介護疲れを感じている人の割合は、実に全体の68.9%にのぼります。男女別に見ると、男性が62.0%、女性が72.4%と、女性の方が10%以上高くなっています。

 

また、同調査によると、介護者の悩みやストレスの原因としてもっとも多かったのが「家族の病気や介護」で、男女ともに7割以上の人がそう回答しています。

 

介護疲れは、介護者の心身の健康を脅かし、介護の継続を困難にしてしまう深刻な問題です。多くの介護者が介護疲れに悩まされている現状をふまえ、早期発見と適切な対処が求められます。

介護疲れを放っておくとどうなる?

介護疲れを放置すると、心身の不調が悪化し、最終的には介護うつを発症してしまう可能性があります。

 

介護うつは、介護疲れが引き金となって起こるうつ病の一種で、抑うつ感や意欲の低下、不眠、食欲不振など、さまざまな症状が現れることも。介護うつになると、家事をする気力が低下してしまい、介護の継続はもちろん、自分の生活すら立ち行かなくなってしまいます。

 

介護疲れは、誰もがなりうる可能性がある問題です。もしも自分や周囲の介護者に介護疲れの兆候が見られたら、早めの対処が重要です。

2介護疲れ・介護うつのセルフチェックをしてみよう

介護疲れや介護うつは、自分では気づきにくいものです。ここでは、介護疲れや介護うつの可能性をセルフチェックする方法を紹介します。

 

以下のような項目が当てはまる場合は、介護疲れや介護うつの可能性が考えられます。

  • 睡眠の質が悪い(寝つきが悪い、夜中に目が覚める、熟睡できないなど)
  • 気分の落ち込みがある
  • イライラすることが多い
  • 食欲の変化がある(食欲が落ちる、または過食になるなど)
  • 疲労感が強い
  • 物事への集中力が低下している
  • 自分を責めてしまう
  • 死にたいと感じることがある

介護疲れや介護うつの兆候は、本人も周囲の人も気づきにくいものです。日頃から、自分の心身の変化に気を配るとともに、周囲の人にも変化があればすぐに声をかけるようにしましょう。

 

チェック項目に多く当てはまるようであれば、早めに専門家への相談をおすすめします。セルフチェックはあくまで目安であり、介護うつの診断には医療機関の受診が必要です。

3介護疲れに注意が必要な人

介護疲れは誰にでも起こりうる問題ですが、とくに注意が必要なタイプの人もいます。以下のような特徴があてはまる人は、より一層介護疲れに気をつける必要があります。

完璧主義の人

完璧主義の人は、細部までこだわり、自分に厳しい傾向があります。介護においても、完璧を求めすぎてしまい、自分を追い詰めてしまわないよう注意が必要です。要介護者の状態が思うように改善しないと、自分の介護が足りないのではないかと思い悩んでしまいます。

 

ときには割り切りも必要です。介護は完璧にできるものではありません。自分のペースでできる範囲のことをしていれば、それで十分なのです。

責任感が強い人

責任感の強い人は、周囲に頼るのが苦手な傾向にあります。「介護は自分がやらなければ」と、すべてを自分で抱え込んでしまいます。

 

しかし、介護は1人で抱え込むには荷が重すぎるのです。家族や周囲の人に協力を求めるのは、決して恥ずかしいことではありません。介護を継続していくためには、介護者自身の心身の健康が不可欠です。

真面目な人

真面目で几帳面な人は、つい自分に厳しくなりすぎてしまいます。「もっとできるはず」「もっと頑張らなければ」と自分を追い詰め、休む間もなく介護に没頭してしまいます。

 

介護は、介護者自身の生活とのバランスを保つのが大切です。自分の時間を確保し、趣味や休養の時間をしっかりと取るようにしましょう。介護者が心身ともに健康でいることが、よい介護につながるのです。

気が弱く人目を気にしがちな人

周りからの評価を気にするタイプの人は「介護をしていない」と思われたくないと必死になり、周囲に弱音を吐けずに1人で抱え込んでしまいます。

 

介護に完璧はありません。要介護者のペースに合わせながら、できる範囲のことをしていけば十分なのです。必要以上に周囲の目を気にせず、マイペースに介護を続けていきましょう。

経済的に余裕がない人

介護には、介護サービスの利用料やおむつなどの消耗品、医療費など、さまざまな費用がかかります。経済的に余裕がない人は、必要な介護サービスを利用できず、身体的にも精神的にも追い詰められてしまいかねません。

 

介護保険サービスを適切に利用できれば、費用を抑えられます。また、各自治体では、おむつ代の助成など、介護者を経済的に支援する制度を設けているところもあります。制度の利用について詳しく知りたいときは、お住まいの地域の地域包括支援センターや担当のケアマネジャーへ相談してみましょう。

4介護疲れの対処法5選

介護疲れは、適切な対処をすれば、軽減が可能です。ここでは介護疲れの対処法を5つ紹介します。

周囲と協力し合う

1人で介護を抱え込むのは、身体的にも精神的にも限界があります。家族や親戚、友人など、周囲の協力を得られれば、介助者の負担軽減へとつながります。

 

1人で抱え込まず、調理や掃除、外出の付き添いなどを分担してもらいましょう。また、要介護者との団らんの時間を設けるのもおすすめです。周囲の人の力を借り、ストレスや負担を減らせれば、介護を長く続けていけます。

介護に関する知識を蓄える

介護の仕方がわからなくて自信が持てない、認知症の症状への対応に悩むなど、介護の知識不足からくるストレスは少なくありません。

 

介護やそれに関わる医療、福祉の知識を身につけるので、適切な判断力や対処力が身につき、介護に対する不安が軽減できます。介護教室への参加や、関連書籍を読むのもおすすめです。

相談できる人や場所を探す

介護の悩みを1人で抱え込むと、ストレスが募るばかりです。信頼できる人に思いを打ち明けたり、専門家の助言を受けたりすることが大切です。

 

地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談のほかにも、介護者のためのサロンや家族会などを利用して、同じ境遇の人たちと交流しましょう。介護の悩みをだれかと共有できれば、ストレスをやわらげられる可能性があります。

自分の趣味や生きがいを作る

介護一辺倒の生活では、介護者自身が疲れきってしまいます。介護以外の時間を設けることは非常に重要です。     自分の趣味に没頭したり、新しい挑戦をしたりすると、気分転換が図れます。

 

とくに趣味の時間は、介護から離れてリフレッシュできる大切な時間です。短時間でも構いません。自分が没頭できる活動をとおして、心身をリラックスさせましょう。

時にはプロの手を借りる

介護保険サービスや家族での介護が限界に近づいてきたら、介護保険外サービスの利用も視野に入れましょう。

 

たとえば、イチロウでは介護保険では対応できない幅広いニーズに応えるサービスを、24時間365日提供しています。食事や排泄、入浴などの身体介護から、通院の付き添い、外出の同行、見守りまで、一人ひとりに合わせたオーダーメイドのサービスを受けられます。

 

また、介護者が一時的に介護から離れる時間を作るために、ショートステイやデイサービスの利用もおすすめです。          介護から解放される時間があれば、心身の疲れを癒やし、新たな気持ちで介護に臨めるでしょう。

 

介護は1人で抱え込まず、時には専門家の力を借りるのが賢明です。プロのサービスを上手に活用して、介護を長く続けていくことがなにより大切なのです。

 

5介護疲れを引き起こさないために!意識すべき心得

介護疲れを引き起こさないためには、日頃からの心がけが重要です。ここでは、介護者が意識しておくべき心得を3つ紹介します。

介護を1人で抱え込まない

介護は1人で抱え込むには、あまりにも大きな負担になります。家族や親戚、友人など、周囲の協力をいかに得られるかが重要です。

 

介護が負担に感じている場合は、遠慮せずに周りの人に助けを求めましょう。1人で頑張り過ぎず、周囲の力を借りることが、介護を長く続けていくポイントになります。

終わりがあると考える

介護は長期戦です。先の見えない不安から「この状態がずっと続くのではないか」と思い詰めてしまう方も少なくありません     。

しかし、介護にはかならず終わりがあります。たとえば、骨折の人の場合、リハビリが進んで歩けるようになれば介護の必要がなくなります。認知症の人の場合も、症状の進行に合わせてケアの方法を変えていけば、対処できる方法が見つかります。

 

介護は一時的なものだと割り切りが大切です。目の前のことに一生懸命取り組む姿勢を持ちつつ、いつかは終わりがくるのを忘れないようにしましょう。

運動・食事に気をつける

介護は身体的にも精神的にも、大きな負担がかかります。介護疲れを引き起こさないためには、日頃から体調管理に気をつける必要があります。

 

ストレス解消には適度な運動が効果的です。ウォーキングは景色を楽しみながらでき、気分転換に最適です。また、ストレッチやヨガは身体の柔軟性を高め、リラックス効果も期待できます。

自分の体調やライフスタイルに合った運動を見つけ、無理のない範囲で行ってみましょう。

 

また、バランスの取れた食事も重要です。疲労回復に効果的なビタミンやミネラルを多く含む食材を積極的に取り入れましょう。自分の好きなものを食べられれば、効果的に気分転換ができます。

6介護うつの治療法は?

介護疲れが悪化すると、介護うつを発症するリスクが高まります。介護うつは、適切な治療を行わないと、日常生活に支障をきたすほど症状が悪化する可能性があります。もしも介護うつを発症したら、専門家への早めの相談が必要です。

 

介護うつの治療法には大きく分けて3つあります。

休養

なによりもまず必要なのが休養です。介護うつの回復には、心身の疲れをしっかりと取り除く必要があります。

 

ショートステイやデイサービスなどの介護保険サービスを利用すれば、介護から離れる時間を作れます。介護による疲れが過度に溜まる前に、ゆっくりと休める時間を作りましょう。

薬物療法

介護うつの治療には、抗うつ薬が用いられます。抗うつ薬の作用で、脳内の神経伝達物質のバランスが整い、気分の落ち込みが和らぎます。

 

ただし、抗うつ薬の服用は医師の指示が欠かせません。自己判断での服用は避けましょう。

精神療法

介護うつの治療には、精神療法が用いられるケースも少なくありません。代表的なものが認知行動療法であり、ネガティブな思考パターンを変える効果が期待でき、気持ちを楽にしていきます。専門家とのカウンセリングをとおして、ストレスへの対処法や感情の整理を行います。

 

介護うつは、適切な治療を行えば十分に回復が望めます。「自分はダメな人間だ」「介護をしていない自分は価値がない」といった否定的な考え方に囚われず、前向きな気持ちで治療に臨みましょう。

7まとめ

介護疲れは、多くの介護者が抱える深刻な問題です。放置すると心身の不調を引き起こし、介護の継続が難しくなる可能性があります。介護の知識を身につけ、自分なりのストレス解消法を見つけるのも効果的です。

 

しかし、介護疲れを感じたら、1人で抱え込まずに、周りに相談し、協力を求めましょう。介護では介護をする側の健康管理も重要です。介護者が倒れてしまうと、介護自体が続けられません。介護疲れはだれにでも起こりうるので、決して恥ずかしいことではありません。

 

介護者の皆さん、自分を責めないでください。あなたはよく頑張っています。休息を取り、周りの助けを借りながら介護を続けましょう。

監修者情報

2012年に作業療法士養成校を卒業後、回復期リハビリテーション病院・第二次救急総合病院へ勤務。他法人の介護老人保健施設、訪問看護ステーション、外来クリニックへの出向をとおし幅広いフィールドで経験を積む。

多様な診療科(脳神経外科、整形外科、循環器内科、呼吸器科)で多くの患者様を担当。お一人おひとりの「こうなりたい」を大切に、個々のニーズに応じた作業療法を実施。地域リハビリテーション事業や職場内の業務改善へも携わる。

2023年より通所介護事業所へ転職。多様な経験と専門知識を活かし、機能訓練指導員として業務を行っている。

齋藤祥平(作業療法士)
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